「体がかゆい」原因は?子どものしつこい皮膚のかゆみ、アトピーと最新治療【小児科専門医が徹底解説】|杉並区・荻窪
私たち杉並区荻窪の長田こどもクリニックは、小児アトピー性皮膚炎の治療に長年力を入れてまいりました。インターネットで医療情報を検索する中で、多くの情報が個人の経験談であったり、医学的根拠が不明瞭であったりして、「どれが本当に信頼できる情報なのか分かりにくい」と感じたことはありませんか?
当院のブログは、そうした保護者の皆さまの不安に応えるため、明確なエビデンス(科学的根拠)に基づいた情報発信を心がけています。この記事も、世界中の医師が信頼を寄せる最新の医学論文レビュー「UpToDate」の情報やその原著論文を基に、他の医療者から見ても妥当だと思っていただけるレベルで、「子どものかゆみ」について徹底解説します。
目次
はじめに:「かゆみ」は病気のサインです
「体がかゆい」—。これは、私たち人間が経験する不快な感覚の一つです。「かゆみ(掻痒:そうよう)」は、それ自体が独立した病気なのではなく、さまざまな病気の**「症状」**として現れます。ドイツで行われた1万人以上の労働者を対象とした調査では、6週間以上続く「慢性的なかゆみ」を持つ人は約16%にものぼったと報告されています[1]。
特にお子さまの場合、かゆみを我慢できずに掻きむしってしまい、皮膚を傷つけ、そこから細菌感染(とびひ)を起こしたり、さらに炎症が悪化したりと、悪循環に陥りがちです。このつらい「かゆみ」の正体を知ることが、適切な治療への第一歩となります。
「かゆみ」の分類:湿疹があるか、ないか?
専門家の間では、かゆみをその原因によって分類します。保護者の皆さまが判断する上で最も簡単な分類は、「目に見える発疹(湿疹)があるかどうか」です。
① 湿疹があるかゆみ(皮膚が原因)
これが、お子さまのかゆみとして最も多いパターンです。皮膚そのものに炎症やトラブルが起きており、それが原因でかゆみが発生しています。
- アトピー性皮膚炎:乳幼児期に最も多い、かゆみを伴う慢性の湿疹です。(後ほど詳しく解説します)
 - 乾燥肌(乾皮症):皮膚のバリア機能が低下し、外部からの刺激に過敏になっています。特に高齢者で多いですが、お子さまのアトピーの土台にもなります。
 - 蕁麻疹(じんましん):蚊に刺されたような、盛り上がる発疹が数時間で出たり消えたりします。
 - 虫刺され、あせも、接触皮膚炎(かぶれ)など
 - 感染症:水ぼうそう、はしか、あるいは疥癬(かいせん)などの寄生虫疾患も強いかゆみを引き起こします。
 
② 湿疹がないのに、体がかゆい(皮膚以外が原因)
見た目には皮膚がきれいなのに、「身体中がかゆい」と訴える場合、背景に皮膚以外の病気が隠れている可能性があります。このタイプは、お子さまではまれですが、注意が必要です。
- 全身性の病気:腎臓の機能が低下している(尿毒症性そう痒)[3]、肝臓の病気で胆汁の流れが悪い( cholestatic pruritus)[4]、甲状腺の異常、血液の病気(真性多血症やリンパ腫など)[5]、糖尿病など。
 - 神経系の病気:神経が圧迫されたり、傷ついたりすることで、かゆみとして認識されてしまう状態(例:多発性硬化症、帯状疱疹後神経痛など)。
 - 心因性の病気:強いストレスや不安、うつ状態が、かゆみを引き起こすこともあります。
 
【最重要】アトピー性皮膚炎のかゆみは、なぜ飲み薬が効きにくいのか?
「かゆみ」と聞くと、多くの人が「ヒスタミン」という物質を思い浮かべ、それを抑える「抗ヒスタミン薬(アレルギーの飲み薬)」が効く、と考えるでしょう。しかし、ここで非常に重要な医学的事実があります。
アトピー性皮膚炎のかゆみの主役は、ヒスタミンではありません。
かゆみを伝える神経には、大きく分けて2種類あることが分かっています[6]。
虫刺されや蕁麻疹(じんましん)のかゆみは、主に「ヒスタミン」という物質が神経を刺激して起こります。そのため、**抗ヒスタミン薬(飲み薬)が非常によく効きます。**
アトピー性皮膚炎や乾燥肌のしつこいかゆみは、ヒスタミンとは別の、さまざまな物質(インターロイキン31[7]やサブスタンスPなど)が神経を刺激して起こります。そのため、**抗ヒスタミン薬(飲み薬)を飲んでも、かゆみがスッキリと止まらないことが多い**のです。
この事実は、アトピー性皮膚炎の治療戦略を考える上で極めて重要です。「かゆいから、かゆみ止めの飲み薬を出す」という単純な治療では、アトピーのかゆみは根本的に解決しないのです。
負の連鎖:「かゆみ」と「ひっかき」の悪循環(Itch-Scratch Cycle)
アトピー性皮膚炎のかゆみが厄介なのは、「かゆいから掻く」→「掻くことで皮膚のバリアがさらに壊れる」→「バリアが壊れると、さらに炎症が悪化し、かゆみ物質が出る」→「さらにかゆくなる」…という、「かゆみとひっかきの悪循環(Itch-Scratch Cycle)」に陥ってしまう点にあります。
掻くという行為は、一時的に痛みの神経を刺激し、かゆみの神経の働きをブロックするため、一瞬だけ気持ちよく感じます[8]。しかし、その結果として皮膚が受けるダメージは甚大で、かゆみを長期化・重症化させる最大の原因となります。
お子さまに「掻いちゃダメ!」と厳しく叱っても、この生理的な悪循環を意志の力だけで断ち切ることは不可能なので、治療をしっかり行い痒くない状態にまで治してあげる必要があります。
治療のゴール:かゆみを止めるための最新アトピー治療戦略
今回は小児のかゆみの原因として多いアトピー性皮膚炎について具体的な治療法をお示しします。
どうすればアトピーのかゆみを止められるのでしょうか?答えはシンプルです。**かゆみの原因となっている「皮膚の炎症」そのものを、強力に抑え込むこと**です。
ステップ1:ステロイド外用薬で、炎症の「火事」を消す
アトピー性皮膚炎のつらいかゆみは、「非ヒスタミン性」であり、皮膚の炎症そのものから生まれています。したがって、このかゆみを止める最も有効で、世界的な標準治療とされているのが**「ステロイド外用薬(塗り薬)」**です[1][2]。抗ヒスタミン薬(飲み薬)が効かないかゆみも、ステロイド外用薬で炎症の火事をしっかり消せば、劇的に改善します。
ステップ2:保湿剤で「バリア」を再建する
炎症が治まった肌は、バリア機能が壊れた「焼け跡」のような状態です。ここに保湿剤をたっぷり塗って人工的なバリアを作ることで、外部からの刺激(乾燥、アレルゲン)を防ぎ、かゆみの再発を予防します。これが、アトピー治療のもう一つの主役です。
ステップ3:「プロアクティブ療法」で、かゆみのない肌を維持する
湿疹が良くなった後も、一見きれいに見える皮膚には、目に見えない炎症(微小炎症)がくすぶっています。この火種を放置すると、すぐに再燃してしまいます。そこで、症状がない皮膚にも週に1〜3回、予防的に抗炎症薬(ステロイドやタクロリムス軟膏)を塗る**「プロアクティブ療法」**を行います。これにより、かゆみの悪循環を断ち切り、長期間快適な状態を維持することができます。新しい治療のように思われますが、当院ではプロアクティブ療法を30年前から行っています。
「体がかゆい」に関する Q&A コーナー
A1. お子さまの場合、内臓疾患などが原因である可能性は非常に低いですが、ゼロではありません。しかし、それ以前に最も多い原因は、目に見える湿疹がなくても、**皮膚全体の「乾燥(乾皮症)」**によってバリア機能が低下し、皮膚が過敏になっている状態です。まずは徹底した保湿を試み、それでも改善しない場合は、アトピー性皮膚炎の初期症状や、まれな全身性疾患の可能性も考え、一度受診されることをお勧めします。
A2. それは、お子さまのかゆみが、蕁麻疹のような「ヒスタミン性のかゆみ」ではなく、アトピー性皮膚炎による**「非ヒスタミン性のかゆみ」**である可能性が非常に高いからです。このタイプのかゆみは、抗ヒスタミン薬(飲み薬)では十分に抑えることができません。かゆみの根本原因である皮膚の炎症を、ステロイドなどの塗り薬でしっかり治療することが必要です。
A3. その可能性もゼロではありませんが、最新の研究では順番が逆である可能性が指摘されています。「皮膚のバリアが壊れている(アトピー)」→「そこから食べ物のアレルゲンが侵入してアレルギーになる」という考え方(二重抗原曝露仮説)です[9]。まずは皮膚の炎症をしっかり治すことが、将来の食物アレルギー予防にも繋がる可能性があります。
長田こどもクリニックの考え方:私たちは「かゆみの原因」から治療します
当院は、小児アトピー性皮膚炎の治療に長年力を入れてきました。私たちは、お子さまが「かゆい」と訴えた時、単にかゆみ止めの薬を出すのではなく、**「なぜ、かゆいのか?」という原因を徹底的に追求します。**
そのかゆみは、ヒスタミンによるものか、それ以外の物質によるものか。皮膚の炎症が原因か、乾燥が原因か、あるいは他の病気が隠れていないか。それを丁寧な診察で見極め、エビデンスに基づいた最適な治療プラン(多くの場合、ステロイド外用薬と保湿剤の併用、そしてプロアクティブ療法)をご家族と一緒に立てていきます。
アトピー性皮膚炎の治療は、定期的な通院による医師のチェックが欠かせません。当院は、お仕事などで日中の受診が難しい保護者の皆さまにも安心して通院を続けていただけるよう、柔軟な診療体制を整えています。
- 平日(月〜金)は、夜20時まで診療
 - 土曜日も、13時まで診療
 - クリニック前に、無料の専用駐車場を6台完備
 
杉並区荻窪で、お子さまのつらい「かゆみ」に、根本から向き合います。どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
- Ständer S, et al. Prevalence of chronic pruritus in Germany: results of a cross-sectional study in a sample working population of 11,730. Dermatology 2010; 221:229.
 - 日本皮膚科学会ガイドライン. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021.
 - Hu X, et al. Prevalence of chronic kidney disease-associated pruritus among adult dialysis patients: A meta-analysis of cross-sectional studies. Medicine (Baltimore). 2018;97(22):e10633.
 - Wang H, Yosipovitch G. New insights into the pathophysiology and treatment of chronic itch in patients with end-stage renal disease, chronic liver disease, and lymphoma. Int J Dermatol. 2010;49(1):1-11.
 - Rowe B, Yosipovitch G. Malignancy-associated pruritus. Eur J Pain. 2016;20(1):19-23.
 - Schmelz M, et al. Specific C-receptors for itch in human skin. J Neurosci. 1997;17(20):8003-8.
 - Mollanazar NK, et al. Mediators of Chronic Pruritus in Atopic Dermatitis: Getting the Itch Out? Clin Rev Allergy Immunol. 2016;51(3):263-292.
 - Davidson S, Giesler GJ. The multiple pathways for itch and their interactions with pain. Trends Neurosci. 2010;33(12):550-8.
 - American Academy of Dermatology. Atopic dermatitis clinical guidelines. (Accessed on October 2025)
 - Lack G. The dual-allergen exposure hypothesis. J Allergy Clin Immunol. 2008.
 
長田こどもクリニック
杉並区荻窪の小児科・アレルギー科

      
        
      
        
      