蚊に刺されたらどうする?子供の腫れに「ステロイド」が推奨される医学的理由【小児科医が解説】
私たち杉並区荻窪の長田こどもクリニックは、小児科診療において、1個人の意見ではなく、常に科学的根拠(エビデンス)に基づいた診断と治療を最優先にしています。
インターネットで医療情報を検索する中で、多くの情報が個人の経験談であったり、根拠の不確かな情報も少なくありません。「虫刺され」や「ステロイド外用薬」に関するこの記事も、世界中の医師が信頼を寄せる最新の医学論文レビューや国内外の診療ガイドラインを基に、他の医療者から見ても妥当だと思っていただけるレベルで、日本一詳しく、そして正確に解説することを目指します。
こんにちは、長田こどもクリニック副院長の長田です。
夏場から秋口にかけて、当院の外来でも非常に多い相談が「蚊に刺された後、ひどく腫れてしまった」「市販の薬を塗っているけれど、かゆみが治まらない」というものです。
日本では昔から「蚊に刺されたら、スーッとする液体の痒み止め(抗ヒスタミン薬)を塗る」という習慣が根付いています。しかし、実は世界的な医学基準や最新のエビデンスにおいては、この方法は推奨されていないことをご存知でしょうか?
今回は、小児科医の視点から、「なぜ子供の虫刺されにはステロイドが必要なのか」について、実際の医学論文やガイドラインのデータを交えて詳しく解説します。
目次
1. 子供の蚊に刺され(虫刺され)が「ひどく腫れる」理由(遅延型反応)
大人になると、蚊に刺されてもすぐに痒くなり、数時間で引いていくことがほとんどです。これを「即時型反応」と呼びます。
一方で、乳幼児や学童期の子供は、刺された翌日や翌々日にピークを迎える、赤くて硬いしこりのような腫れが生じることがよくあります。これを「遅延型反応」と呼びます。
この「遅延型反応」はアレルギー反応の一種で、子供に非常に多く見られる特徴です。医学的には「小児ストロフルス(激しい痒みを伴うイボのような反応)」とも呼ばれ、非常に強い痒みと炎症を伴います。
2. 【エビデンス】なぜ「市販のかゆみ止め」では不十分なのか
「蚊に刺されたら、とりあえず家にある液体のかゆみ止め(抗ヒスタミン薬:例は液体ムヒ)を塗る」という方は多いと思います。しかし、医学的なエビデンスに基づくと、この対応は推奨されていません。具体的な研究データを見てみましょう。
論文①:塗る抗ヒスタミン薬は「推奨しない」(BMJレビュー)
イギリスの権威ある超一流医学誌『BMJ』に掲載された虫刺され管理に関するレビュー論文では、以下のように結論づけられています。
局所(塗り薬)の抗ヒスタミン薬は、かゆみを抑える効果が限定的である。
さらに、皮膚感作(アレルギー性接触皮膚炎=かぶれ)を起こすリスクがあるため、一般的に使用は推奨されない。
(出典:Drug and Therapeutics Bulletin 2012 [1])
論文②:ステロイドは「しこり」を有意に縮小させる(比較試験)
では、抗ヒスタミン薬とステロイド、どちらが有効なのでしょうか?フィンランドで行われたランダム化比較試験(RCT)がその答えを示しています。
研究デザイン:
蚊に刺されると反応が出やすい成人ボランティア28名を対象に、刺された直後に「セチリジン(抗ヒスタミン薬)」「ヒドロコルチゾン(ステロイド外用薬)」「プラセボ(偽薬)」を塗布し比較した。
結果:
刺されてすぐの「かゆみ」:抗ヒスタミン薬が最も抑制した。→液体ムヒも刺されてすぐは効果はある!
遅れて出る「赤み・硬結(しこり)」:ステロイド外用薬を塗った群でのみ、プラセボと比較して有意にサイズが縮小した。※ムヒ効かない
(出典:Karppinen A, et al. Acta Derm Venereol. 2012 [2])
この結果から、「刺された瞬間の痒みには抗ヒスタミン薬も効くが、後からぶり返すしこりや腫れ(遅延型反応)を治すにはステロイドが必要」ということが分かります。子供の虫刺されは後者の「腫れ」が問題になるため、ステロイドの出番となるのです。
3. 海外ガイドラインが「ステロイド外用」を推奨する理由
世界のスタンダードは「炎症にはステロイド」
イギリス国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインでも、以下のように推奨されています。
虫刺されによる局所的な炎症とかゆみがある場合、単なるかゆみ止めではなく、「中等度〜強力なステロイド外用薬(mild to moderate potency corticosteroids)」の使用を推奨する。
(出典:NICE CKS [3])
小児特有の「ストロフルス」への効果
小児アレルギー領域の論文でも、子供特有の長引く虫刺され(丘疹性蕁麻疹)について以下のように報告されています。
子供の虫刺されによる過敏反応に対し、早期に十分な強さ(中〜強力クラス)の局所ステロイドを使用することで、かゆみと搔き壊しの悪循環(itch-scratch cycle)を断ち切り、病変の治癒を早めることができる。
(出典:Demain JG. Curr Allergy Asthma Rep. 2003 [4])
「ステロイドは怖い」というイメージがあるかもしれませんが、炎症が起きている場所にピンポイントで、適切な強さの薬を短期間使うことは、世界的に見ても「最も理にかなった治療法」なのです。
4. 放置は危険!「とびひ(伝染性膿痂疹)」への悪化を防ぐ
子供の虫刺されで最も恐ろしいのは、「とびひ(伝染性膿痂疹)」への悪化です。
痒みを我慢できずに患部を掻き壊してしまうと、その傷口から黄色ブドウ球菌などの細菌が入り込みます。これが「とびひ」です。一度とびひになると、全身に水疱が広がり、抗生物質の内服などが必要になるケースもあります。
「痒みを早く止めること」は「掻き壊しを防ぐこと」であり、それが「とびひの予防」に直結します。
だからこそ、効果の薄い市販薬で様子を見るのではなく、医療機関で処方される適切な外用薬で、早急に炎症を抑える必要があるのです。
5. Q&A:よくある質問(受診の目安など)
- Q1. 子供に強いステロイドを塗っても大丈夫ですか?副作用が心配です。
- A. 短期間の適切な使用であれば、全身的な副作用の心配はほとんどありません。
虫刺されのような局所的な炎症には、中途半端に弱い薬を長期間塗るよりも、十分な強さ(Strongクラスなど)のステロイドを短期間(数日〜1週間程度)塗って、スパッと治す方が副作用のリスクも低く、理にかなっています。当院ではお子様の皮膚の状態に合わせて、最適な強さのお薬を処方します。 - Q2. どのタイミングで受診すべきですか?
- A. 「赤み・腫れ」が出た時点での受診をおすすめします。
特に、以下のような場合は早めにご相談ください。
- 市販薬を塗っても痒みや赤みが引かない
- 患部が硬くしこりになっている
- 水ぶくれができている
- 掻き壊してジクジクしている(とびひの疑い)
- 刺された箇所がたくさんある
- Q3. 液体ムヒなどの市販薬は使わない方がいいですか?
- A. 刺された直後の軽い痒みであれば使用しても構いませんが、腫れには無効なことが多いです。
論文データ[2]でも示されている通り、即時的な痒みには一定の効果がありますが、赤く腫れてしまった「遅延型反応」に対しては効果が薄いです。しこりや腫れがある場合は、小児科などの医療機関で処方されるステロイド外用薬への切り替えをお勧めします。
6. まとめ:長田こどもクリニックの方針
蚊に刺された程度で病院に行っていいのかな?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、子供の皮膚トラブルにおいて「早期治療」は鉄則です。
エビデンスに基づき、炎症をしっかり抑える治療を行うことで、お子様が「痒くて眠れない」夜を減らし、傷跡を残さない診療を心がけています。
適切な医療機関の利用について
もちろん、軽度で数分〜数時間で消えるような痒みであれば、ご家庭でのケアで十分な場合もあります。蚊に刺された方全員が必ずクリニックを受診しなければならないわけではありません(医療資源や皆様の保険料を大切にする観点からも、軽症での頻回な受診は必須ではありません)。
しかし、「いつも蚊に刺されると水ぶくれになる・ひどく腫れる」「市販薬で治らない」「掻き壊してしまった」といった症状が強く出ている場合には、我慢せずに小児科の力を頼ってください。それは過剰な受診ではなく、適切な治療へのアクセスです。
その他、アトピー性皮膚炎、とびひ(伝染性膿痂疹)、ニキビなど、お子様の皮膚トラブルでお困りのことがあれば、お気軽に当院にご相談ください。
皮膚のトラブルでお悩みの方はお気軽にご相談ください。
WEBからのご予約を24時間受け付けております。
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参考文献(References)
- 1)Drug and Therapeutics Bulletin. "Management of insect bites and stings." BMJ. 2012;344:e2156. [BMJ](概要:局所抗ヒスタミン薬は効果が限定的であり、感作のリスクがあるため推奨されないとするレビュー)
- 2)Karppinen A, et al. "Antihistamine and corticosteroid topical treatment for mosquito bites: a randomized, double-blind, placebo-controlled study." Acta Derm Venereol. 2012;92(3):225-228. [PubMed](概要:成人28名を対象としたRCT。ステロイド外用は遅延反応による硬結サイズを有意に縮小させた)
- 3)NICE (National Institute for Health and Care Excellence) CKS: Insect bites and stings. [NICE CKS](概要:英国ガイドライン。炎症とかゆみがある場合、中等度〜強力なステロイド外用を推奨)
- 4)Demain JG. "Papular urticaria and things that bite in the night." Curr Allergy Asthma Rep. 2003;3(4):291-303. [PubMed](概要:小児の丘疹性蕁麻疹には早期の強力なステロイド外用が有効であるとするレビュー)
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杉並区荻窪の小児科・アレルギー科

