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【医師監修】乳児湿疹にワセリンは逆効果?塗っても治らない3つの原因と正しい保湿剤の選び方

【医師監修】乳児湿疹にワセリンは逆効果?塗っても治らない3つの原因と正しい保湿剤の選び方|杉並区・荻窪 長田こどもクリニック

【医師監修】乳児湿疹にワセリンは逆効果?塗っても治らない3つの原因と正しい保湿剤の選び方

こんにちは、杉並区南荻窪の長田こどもクリニック、副院長です。

当院のブログが目指すこと:エビデンスに基づく情報発信

私たち杉並区荻窪の長田こどもクリニックは、小児科診療において、1個人の意見ではなく、常に科学的根拠(エビデンス)に基づいた診断と治療を最優先にしています。

インターネットで医療情報を検索する中で、多くの情報が個人の経験談であったり、根拠の不確かな情報も少なくありません。「乳児湿疹」や「保湿剤」に関するこの記事も、世界中の医師が信頼を寄せる最新の医学論文レビューや国内外の診療ガイドラインを基に、他の医療者から見ても妥当だと思っていただけるレベルで、日本一詳しく、そして正確に解説することを目指します。

日々の診察の中で、
「赤ちゃんの肌がカサカサしていたのでワセリンを塗ったけれど、良くならない」
「むしろ赤みが増して、痒がっている気がする」
というご相談をよくいただきます。

ワセリンは非常に安全で優れた保湿剤ですが、すべての肌トラブルに万能なわけではありません。病態によっては、ワセリンの特性が裏目に出てしまう(逆効果になる)こともあります。

今回は、医学的な視点から「ワセリンを塗っても治らない、あるいは悪化してしまう原因」と、成分や剤形による「保湿剤の正しい使い分け(ヒルドイド、尿素、亜鉛華軟膏など)」について、データを交えて詳細に解説します。

1. ワセリンで悪化?医学的に考えられる3つの原因

ワセリンを使用して症状が悪化する場合、主に以下の3つの医学的要因が考えられます。

① 脂漏性湿疹(マラセチアの関与)に油分を与えている

生後3ヶ月頃までの赤ちゃんによく見られる「乳児脂漏性湿疹」。
この原因は、お母さんから受け継いだホルモンの影響で皮脂分泌が盛んになることだけでなく、皮膚の常在菌である「マラセチア(カビの一種)」が関与していることが分かっています。

マラセチアは皮脂(トリグリセリド)を分解して遊離脂肪酸を作り出し、これが皮膚への刺激となって炎症を引き起こします1)
この状態で油分(ワセリンなど)を厚塗りすると、皮脂やマラセチアの代謝産物がスムーズに排出されず毛穴が詰まり、炎症を助長してしまうリスクがあります。

② すでに「炎症」が起きている(保湿剤に抗炎症作用はない)

皮膚が赤くなっている状態は、細胞レベルで炎症が起きています。
ワセリンなどの保湿剤はあくまで角層の保護を行うものであり、炎症を鎮める作用はありません。

炎症がある肌に保湿剤だけを塗っても、「火事の現場に水をかけずにシートを被せる」ようなもので、炎症はくすぶり続けます。この場合は、まずステロイド外用薬などで「消火」をする必要があります。

③ 閉塞効果による「温熱刺激」と「痒み」の増強

ワセリンは皮膚を完全に覆う「閉塞効果(Occlusive effect)」が非常に高い物質です。
研究データによると、ワセリンは皮膚からの水分蒸散量を98%以上抑えるという強力なフタの役割をします2)

しかし、この強力な閉塞性が裏目に出ることがあります。厚く塗りすぎると皮膚からの熱の放散や汗の蒸発が妨げられ、皮膚温が上昇したり、汗が皮膚内に留まる(あせもと同じ状態になる)ことで、痒み神経が刺激されてしまうのです。
特にアトピー性皮膚炎のお子さんは、熱がこもると痒みを感じやすい過敏な状態にあるため、注意が必要です。

2. 【徹底比較】ワセリン・ヒルドイド・尿素・亜鉛華軟膏の違い

「保湿剤」と一言で言っても、その作用機序(効き方)は成分によって全く異なります。
それぞれの特徴を理解して使い分けることが治療の近道です。

成分名(商品名) 主な作用 特徴とエビデンス
白色ワセリン
(プロペト等)
保護・閉塞
(Emollient)
水分の蒸発を防ぐ力が最強。
水分蒸散量(TEWL)を98%以上抑制します。外部刺激からの保護には最適ですが、これ自体に水分を与える力(保水性)はありません。皮膚に水分が残っている入浴直後に塗るのが鉄則です。
ヘパリン類似物質
(ヒルドイド等)
保水・血行促進
(Humectant)
水分を抱え込む力が高い。
角層の水分量を増加させる作用があります。さらに血行促進作用や抗炎症作用も併せ持ち、乾燥肌(皮脂欠乏性湿疹)の治療薬として第一選択となります。
尿素製剤
(パスタロン等)
角質溶解・保水
(Keratolytic)
硬くなった皮膚を柔らかくする。
水分保持能力に加え、硬くなった角質を溶かす作用があります。大人の「かかと」等には有効ですが、傷口やひび割れに塗るとしみる(刺激感がある)ため、小児のただれた湿疹には第一選択となりにくいです。
亜鉛華軟膏 収れん・保護
(Astringent)
水分を吸収し、乾燥させる。
これは厳密には保湿剤ではありません。浸出液(ジュクジュク)を吸収し、皮膚を保護する作用があります。おむつかぶれや、ジュクジュクした重度の湿疹に使われます。
※乾燥した肌(ドライスキン)に塗ると、さらに乾燥が進むため不向きです。

3. 同じ「ヒルドイド」でも全然違う?剤形別の使い分け

診察室で「ヒルドイドのローションをお願いします」と言われた際、私は必ず「乳液タイプですか?化粧水のような透明なタイプですか?」と確認します。
同じ成分名でも、基剤(ベースとなる成分)によって使用感や効果、副作用のリスクが異なるためです。

  • ■ ソフト軟膏(油中水型)
    カバー力が最も高く、保湿効果が持続します。しかしベタつきが強く、水で洗い流しにくいのが欠点です。冬場や、極度の乾燥部分に適しています。
  • ■ クリーム(水中油型)
    水分と油分のバランスが良く、最もスタンダードです。伸びが良く、ベタつきも少ないため、通年で使用可能です。
  • ■ ローション(乳剤性 / 乳液タイプ)
    クリームより油分が少なく、水分が多いタイプです。広範囲に塗り広げやすく、使用感が良いためお子さんも嫌がりにくいです。
  • ■ ローション(溶液性 / 水・透明タイプ)
    ※要注意※ さっぱりしていますが、基剤にアルコールなどが含まれることが多く、掻き壊した傷や湿疹に塗ると強くしみることがあります。敏感肌のお子さんには注意が必要です。
  • ■ 泡状スプレー(フォーム)
    最も伸びが良く、すぐに馴染みます。じっとしていないお子さんの全身に手早く塗るのに最適です。ベタつきが極めて少ないため、夏場や頭皮への使用にも向いています。

4. 「治らない」ときはアトピーのサイン?受診の目安

「保湿剤の種類を変えても良くならない」
「塗った直後はいいけれど、すぐに乾燥して痒がる」

このような場合、単なる乾燥肌(ドライスキン)ではなく、皮膚のバリア機能が低下し、アレルギー性の炎症が慢性化している「アトピー性皮膚炎」の可能性があります。

日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン3)では、炎症を伴う皮疹に対しては「保湿剤のみ」での治療は推奨されていません。
まずステロイド外用薬やタクロリムス軟膏、モイゼルト軟膏などの「抗炎症薬」を使って炎症(火事)をしっかりと消火し、きれいになった肌を保湿剤で維持する「プロアクティブ療法」が世界標準の治療法です。

まとめ:科学的根拠に基づいたスキンケアを

赤ちゃんの肌は非常にデリケートです。「なんとなくワセリン」「とりあえずヒルドイド」ではなく、肌の状態(ジュクジュク、カサカサ、炎症の有無)に合わせた最適な選択が必要です。

長田こどもクリニックでは、皮膚の状態を専門医が診察し、エビデンスに基づいた最適な外用薬の選択と、ご家庭での具体的な塗り方指導を行っています。
自己判断で長引かせず、ぜひ一度ご相談ください。

ご予約・お問い合わせ

当院では、薬の使い方やスキンケアについて、時間をかけて丁寧にご説明します。
平日夜20時まで、土曜も13時まで診療しています。

〒167-0052 東京都杉並区南荻窪1-31-14
TEL: 03-3334-2030

引用文献

  1. Ro BI, Dawson TL. The role of sebaceous gland activity and scalp microfloral metabolism in the etiology of seborrheic dermatitis and dandruff. J Investig Dermatol Symp Proc. 2005. (※マラセチアと脂質分解に関する基礎的知見)
  2. Grubauer G, et al. Transepidermal water loss: the signal for recovery of barrier structure and function. J Lipid Res. 1989;30(3):323-333.(ワセリンのTEWL抑制効果に関する基礎研究)
  3. 公益社団法人日本皮膚科学会, 一般社団法人日本アレルギー学会. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024. 日皮会誌. 2024; 134(10): 2397-2483.

長田こどもクリニック
杉並区荻窪の小児科・アレルギー科

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