【小児科医が解説】アトピーの血液検査「TARC」とは?見た目では分からない炎症を数値化する重要性|杉並区・荻窪
私たち杉並区荻窪の長田こどもクリニックは、小児アトピー性皮膚炎の治療において、医師の「経験」や「見た目」だけに頼るのではなく、**「客観的なデータ(エビデンス)」**に基づいた確実な治療を提供することを重視しています。
「肌がきれいになったから、薬をやめてもいいですか?」という保護者の方からのご質問に対し、私たちが自信を持って「はい」または「もう少し続けましょう」とお答えできるのは、**「TARC(ターク)」**という検査数値を指標にしているからです。この記事では、アトピー治療の羅針盤とも言えるTARC検査について、最新のガイドラインに基づいて詳しく解説します。
目次
はじめに:「見た目はきれい」でも、アトピーは治っていない?
アトピー性皮膚炎の治療で最も難しいのは、**「薬のやめどき」**です。
ステロイド軟膏を塗って湿疹が消え、ツルツルの肌になった時、多くの保護者の方は「もう治った」と思って薬をやめてしまいます。しかし、その数日後、またかゆみと赤みがぶり返す…。この「いたちごっこ」を経験された方は多いのではないでしょうか。
実は、見た目がきれいになっても、皮膚の奥深くではまだ**「目に見えない炎症(微小炎症)」**がくすぶっていることがほとんどです。この「残り火」を完全に消し去らない限り、アトピーは何度でも再発します。
では、どうやって「残り火」があるかどうかを知れば良いのでしょうか?その答えが、血液検査で分かる**「TARC(ターク)」**という数値です。
TARC(ターク)とは? IgEとの決定的な違い
アレルギー検査というと「IgE(アイジーイー)」という数値を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、アトピー性皮膚炎の**「今の状態」**を知るためには、IgEよりもTARCの方が圧倒的に優れています。
IgE(非特異的IgE、特異的IgE)
- 意味:その子の持つ「アレルギー体質の強さ」や「何に対してアレルギーがあるか」を示します。
- 特徴:アトピーの症状が良くなっても、すぐには下がりません。数ヶ月〜数年単位でしか変化しないため、「今の治療が効いているか」の判断には不向きです。
TARC(Thymus and Activation-Regulated Chemokine)
- 意味:皮膚の中で、今まさに起きている「炎症の強さ」をリアルタイムで反映します[1]。
- 特徴:症状が悪化すればすぐに上がり、治療がうまくいって炎症が治まれば、速やかに下がります。つまり、「アトピーの通信簿」や「皮膚の温度計」のような役割を果たします。
なぜTARCが必要なのか? アトピーの「隠れ火種」を見つける
TARC検査の最大のメリットは、**「医師の目でも見えないレベルの炎症」を数値化できること**です。
アトピー性皮膚炎は「氷山」に例えられます。
- 海面に出ている部分(目に見える湿疹):私たちが普段認識している症状です。
- 海面下の巨大な氷(目に見えない炎症):見た目がきれいになっても、皮膚の下に残っている炎症です。
TARCは、この「海面下の氷」の大きさを教えてくれます。見た目がツルツルでも、TARCの値が高ければ、まだ薬を減らしてはいけないサインです。逆に、TARCが基準値まで下がれば、自信を持って「プロアクティブ療法(再発予防)」へ移行したり、薬を減らしたりすることができます。
【エビデンス解説】TARCの数値と重症度の関係
日本の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」でも、TARCは重症度評価や治療効果の判定に有用なバイオマーカーとして推奨されています[2]。
TARCの基準値は年齢によって異なりますが、一般的に以下のように評価されます。
年齢によって基準値の上限が異なります(生後6ヶ月未満は高めに出る傾向があります)。
- 数値が高い場合: その数値の高さに比例して、皮膚の炎症が強く、バリア機能が破壊されていることを示唆します。
乳幼児は生理的にTARCが高値を示す傾向があります。当院では、以下の年齢別基準値を参考に判断しています。
| 年齢 | 基準値(pg/mL未満) | 備考 |
|---|---|---|
| 6〜12ヶ月未満 | 1,367 | 生理的に最も高い時期です |
| 1〜2歳未満 | 998 | 徐々に基準値が下がります |
| 2歳以上〜小児 | 743〜760 | 大人よりまだ少し高めです |
| 成人 | 450 | 一般的に700以上で中等症とされます |
※検査試薬や研究所により若干の数値差がありますが、概ね上記の傾向を示します。
※具体的な基準値は検査会社や年齢区分により異なります。当院ではお子さまの年齢に合わせて詳しくご説明します。
研究によると、TARCの値は、医師による重症度評価(EASIスコアなど)と非常に強く相関することが分かっています[1]。つまり、TARCを測定することは、専門医がじっくり肌を診察するのと同じくらい、あるいはそれ以上に正確に病状を把握できる手段なのです。
当院の活用法:TARCを使って「薬の減らし時」を見極める
長田こどもクリニックでは、TARC検査を単なる「検査」ではなく、「治療戦略の羅針盤」として活用しています。
- 初診時・悪化時:現在の重症度を客観的に把握し、ステロイドのランク(強さ)を決定するために測定します。
- 治療経過中(見た目がきれいになった時):ここが最も重要です。「そろそろ薬を減らしたい」と思ったタイミングで測定します。
- TARCが高いままなら:まだ「隠れ火種」があります。見た目がきれいでも、強い薬をもう少し続けましょう、と提案します。
- TARCが正常化していれば:火事は完全に消えました。安心して薬のランクを下げたり、塗る間隔を空ける「プロアクティブ療法」へ移行しましょう、と判断します。
このように、**「感覚」ではなく「数値」で判断する**ことで、再発のリスクを最小限に抑えながら、安全に減薬を進めることができます。ただし小児ですので難治例や体格の大きい6歳以上の方で検討いたします。
TARC検査 Q&Aコーナー
A1. 通常の採血(腕からの血液採取)が必要です。痛みは一瞬ありますが、当院のスタッフはお子さまの採血に慣れておりますので、短時間で終わらせます。頻度は、治療の節目(薬を減らすタイミングなど)に行うため、毎月必ず行うわけではありません。およそ2〜3ヶ月に1回程度が目安です。
A2. アトピー性皮膚炎の診断がついている場合、健康保険が適用されます。杉並区などの子ども医療費助成(マル乳・マル子など)をお持ちの方は、窓口負担はありません(助成の範囲内です)。
A3. はい、可能です。ただし、あまりに小さなお子さまや、血管が見えにくい場合は、無理に採血せず、臨床症状での判断を優先することもあります。医師が必要と判断し、ご家族の同意が得られた場合に行います。
長田こどもクリニックの想い:データで安心をお届けします
アトピー性皮膚炎の治療は、ゴールが見えにくく、不安になることが多いものです。「いつまで薬を塗ればいいの?」「本当に良くなっているの?」という不安に対し、TARCという客観的な数値は、明確な答えをくれます。
「数値が下がった!」という結果は、保護者の方やお子さま自身の治療へのモチベーション(やる気)にも繋がります。私たちは、医学的エビデンスに基づいた「見える化」された医療で、お子さまのツルツル肌への道のりをサポートします。
定期的な通院や検査が必要なアトピー治療。当院は、通いやすさにもこだわっています。
- 平日(月〜金)は、夜20時まで診療
- 土曜日も、13時まで診療
- クリニック前に、無料の専用駐車場を6台完備
杉並区荻窪で、エビデンスに基づいたアトピー治療をお探しの方は、ぜひ長田こどもクリニックにご相談ください。
参考文献
長田こどもクリニック
杉並区荻窪の小児科・アレルギー科

