【小児科医が徹底解説】子どもの手汗(多汗症)を止める方法|最新治療薬アポハイドローションまで|杉並区・荻窪
インターネットで医療情報を検索する中で、各施設の先生方の個人的な意見も多く、どこまでが客観的な事実なのか分かりにくい、と感じたことはありませんか?私たち杉並区荻窪の長田こどもクリニックは、そうした保護者の皆さまの不安に応えるため、明確なエビデンス(科学的根拠)に基づいたブログ作成を心がけています。この記事も、**「原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023 年改訂版」**を基に、他の医療者から見ても妥当だと思っていただけるレベルで、「子どもの手汗」について徹底解説します。
目次
はじめに:「うちの子、手汗がすごい…」それは体質?それとも病気?
「テストの時に答案用紙が汗で濡れてしまう」「友達と手をつなぐのを嫌がる」「スマホやタブレットがうまく操作できない」…。お子さまの過剰な手汗は、日常生活の様々な場面で、ご本人のQOL(生活の質)を大きく低下させる、深刻な悩みとなり得ます。
保護者の皆さまも、「ただの汗っかきなだけ?」「成長すれば治る?」と様子を見るべきか、「これは治療が必要な病気なの?」と病院へ行くべきか、判断に迷われることが多いのではないでしょうか。この記事では、そんな子どもの「すごい手汗」について、その正体から原因、そして最新の治療法まで、科学的根拠に基づいて徹底的に解説します。
手汗の正体「原発性手掌多汗症」とは?
まず大切なことは、過剰な手汗が**「原発性手掌多汗症」**という、治療の対象となる病気である可能性がある、ということです。「原発性」とは、結核や甲状腺機能亢進症など、他の病気が原因ではない、という意味です。「局所」は、手のひら(手掌)のように、体の一部に限定して汗が増える状態を指します。
つまり、特別な原因がないのに、手のひらから日常生活に支障が出るほどの大量の汗が出る状態、それが原発性手掌多汗症です。これは決して珍しい病気ではなく、日本の調査では、手掌多汗症の有病率は5.33%、つまり約20人に1人という報告もあります[1]。しかし、実際に医療機関を受診する人は、そのうちの1割にも満たないのが現状です。
なぜ子どもの手汗は多い?科学的根拠に基づく原因
「なぜ、うちの子だけこんなに手汗をかくの?」という疑問に対し、ガイドラインではいくつかの科学的な考察が示されています。
- 汗腺の異常ではない:多汗症の人の汗腺(汗を出す腺)の数や大きさが、そうでない人と比べて多いわけではないことが分かっています。問題は、汗を出す機能が過剰に働きすぎていることにあります[2]。
- 「精神性発汗」の過剰反応:手汗は、暑い時に体温を下げるための「温熱性発汗」とは異なり、緊張や不安、恐怖といった精神的なストレスによって誘発される「精神性発汗」に分類されます。これは、動物が敵から逃げる時などに、足裏の滑り止めの役割を果たしていた名残と考えられています。多汗症の方は、この精神性発汗をコントロールする交感神経が、普通の人よりも過敏に反応してしまう状態にあると考えられます[3]。
- 遺伝的な要因:手掌多汗症は、小児期や思春期に発症することが多く、家族内での発症もよく見られます。このことから、何らかの遺伝的な背景が関与している可能性が指摘されています[4]。
これって多汗症?セルフチェックできる診断基準
「日常生活に支障がある」と言っても、その感じ方には個人差があります。そこで、原発性局所多汗症の診断基準として、以下の6つの項目が国際的に用いられています。**「明らかな原因がないまま、6ヶ月以上、過剰な手汗が続いている」**ことを前提に、以下のうち**2項目以上**が当てはまる場合に、原発性手掌多汗症と診断されます[5]。
- 最初に症状が出たのが25歳以下である
- 左右対称に発汗がみられる
- 睡眠中は発汗が止まっている
- 1週間に1回以上、多汗のエピソードがある
- 家族に同じような症状の人がいる
- 手汗によって日常生活に支障をきたしている
お子さまがこれらの項目に当てはまるようであれば、それは「体質」と片付けずに、一度専門家に相談することを検討すべきサインです。
【最新治療】保険適用になった塗り薬「アポハイド®ローション20%」とは
これまで、子どもの手汗治療は、効果や副作用、通院の負担などから、なかなかハードルが高いものでした。しかし、2023年6月、**原発性手掌多汗症の治療薬として、日本で初めて保険適用となる塗り薬「アポハイド®ローション20%」が登場**し、治療の選択肢が大きく広がりました。
アポハイド®ローションの仕組み(作用機序)
この薬は、「抗コリン薬」という種類に分類されます。汗は、交感神経の末端から放出されるアセチルコリンという物質が、汗腺にある「ムスカリン受容体(M3受容体)」という“スイッチ”を押すことで分泌されます。アポハイド®ローションは、この**スイッチにアセチルコリンが結合するのをブロックすることで、過剰な発汗信号を止め、汗の量を減らします。**
使い方と効果
使い方は非常にシンプルです。1日1回、就寝前に、ポンプで薬液を手に取り、両方の手のひらに塗ります。手袋などをする必要はありません。国内の臨床試験では、**4週間の使用で、約6割の患者さんの発汗量が半分以下に減少した**という結果が報告されています[6]。
主な副作用
塗り薬なので、飲み薬に比べて全身性の副作用は出にくいとされていますが、塗った薬が吸収されたり、手を介して口や目に入ったりすることで、抗コリン作用による副作用(口の渇き、散瞳による目の見えにくさ、排尿困難など)が起こる可能性があります。また、塗った場所に皮膚炎(赤み、かゆみ、湿疹など)が起こることも報告されています。
アポハイド®ローションは、小児(12歳以上)での有効性と安全性も確認されており、これまで有効な治療法が少なかったお子さまの手汗治療にとって、大きな希望となる新しい選択肢です。
手汗と心の問題:お子さまの「悩み」に気づくことの大切さ
手汗の問題は、単に「手が濡れる」という物理的な不快感だけではありません。多汗症のお子さまは、そうでないお子さまに比べて、**不安障害やうつ病の有病率が有意に高い**ことが報告されています[7]。
「手を繋ぐのをためらう」「字を書くのが嫌になる」「楽器の演奏に集中できない」といった経験が積み重なることで、自己肯定感が低下し、学業や対人関係に深刻な影響を及ぼすことがあります。手汗を治療することで、こうした精神的な負担が軽減されることも多く、QOLの改善が期待できます。
手汗に関する Q&A コーナー
A1. アポハイド®ローションの国内での承認は、12歳以上が対象です。しかし、多汗症の症状はもっと小さい頃から現れることもあります。12歳未満のお子さまに対しても、塩化アルミニウム外用など、他の治療選択肢はありますので、年齢に関わらず、まずは一度ご相談ください。
A2. アポハイド®ローションのような塗り薬は、塗った場所の汗だけを抑えるため、全身の体温調節に影響を与えることはほとんどありません。手術(交感神経遮断術)で起こりうる「代償性発汗(他の場所の汗が増えること)」の心配は、まずないと考えてよいでしょう。
A3. 原発性手掌多汗症と診断されれば、アポハイド®ローションによる治療は保険適用となります。お子さまの場合は、自治体の医療費助成制度が適用されるため、自己負担はほとんどかからない場合が多いです。
長田こどもクリニックの考え方:お子さまの悩みに、親子で向き合う
手汗は、生命に関わる病気ではありません。しかし、お子さまの学校生活、友人関係、そして自己肯定感に、静かに、しかし深刻な影響を与える可能性がある「QOLの病気」です。私たちは、「たかが汗」と軽視することなく、お子さまと保護者の皆さまの悩みに真摯に耳を傾け、一人ひとりの生活スタイルに合った最適な治療法を一緒に探していくことを大切にしています。
アポハイド®ローションという新しい選択肢も加わりました。もう、一人で悩む必要はありません。
部活や塾で忙しいお子さまも、お仕事でお忙しい保護者の方も、安心して受診できるよう、当院は柔軟な診療体制を整えています。
- 平日(月〜金)は、夜20時まで診療
- 土曜日も、13時まで診療
- クリニック前に、無料の専用駐車場を6台完備
杉並区荻窪で、いつでも頼れるかかりつけ医として、皆さまをお待ちしています。
参考文献
- 1.Fujimoto T, et al. Epidemiological study and considerations of primary hyperhidrosis in Japan. J Dermatol. 2013;40(11):886-90.
- 2.Sato K, et al. Biology of sweat glands and their disorders. II. Disorders of sweat gland function. J Am Acad Dermatol. 1989;20(5 Pt 1):713-26.
- 3.Iwase S, et al. Altered sweat and skin blood flow responses to mental stress in patients with palmar hyperhidrosis. J Auton Nerv Syst. 1997;64(1):53-9.
- 4.Ro KM, et al. A study on the genetic basis of palmar hyperhidrosis. J Korean Med Sci. 2002;17(5):706-8.
- 5.Hornberger J, et al. Recognition, diagnosis, and treatment of primary focal hyperhidrosis. J Am Acad Dermatol. 2004;51(2):274-86.
- 6.マルホ株式会社. 医療関係者向け情報サイト. アポハイドローション20%.
- 7.Bahar R, et al. Hyperhidrosis, anxiety, and depression: a case-control study. J Am Acad Dermatol. 2016;75(6):1126-1130.
長田こどもクリニック
杉並区荻窪の小児科・アレルギー科