【小児科医が解説】とびひ(伝染性膿痂疹)の原因、正しい治療と登園基準|杉並区・荻窪
私たち杉並区荻窪の長田こどもクリニックは、小児科診療において、1個人の意見ではなく、常に科学的根拠(エビデンス)に基づいた診断と治療を最優先にしています。
インターネットで医療情報を検索する中で、多くの情報が個人の経験談であったり、根拠の不確かな情報も少なくありません。「とびひ(伝染性膿痂疹)」に関するこの記事も、世界中の医師が信頼を寄せる最新の医学論文レビュー「UpToDate」や国内外の診療ガイドラインを基に、他の医療者から見ても妥当だと思っていただけるレベルで、日本一詳しく、そして正確に解説することを目指します。
「虫刺されを掻き壊していたら、ジクジクした湿疹が全身に広がってきた…」「薬を塗っているのに、なかなか治らない」
お子さまの皮膚に水ぶくれやかさぶたができ、あっという間に広がっていく「とびひ(伝染性膿痂疹)」。保育園や幼稚園での流行も多く、保護者の皆さまにとっては非常に心配な病気の一つです。
この記事では、とびひの2つの種類(水疱性・痂皮性)の違い、当院が「フシジンレオ軟膏」を第一選択とする医学的理由、そして保護者の皆さまが最も気になる「いつから登園できるのか」という基準について、最新の医学的エビデンスに基づいて徹底解説します。
目次
とびひ(伝染性膿痂疹)とは? 2つの種類と原因菌
とびひは、皮膚に細菌が感染して起こる病気です。正式には「伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)」と呼ばれ、その名の通り、火事の飛び火のようにあっという間に全身に広がることから「とびひ」と呼ばれています。
臨床的には大きく2つのタイプに分けられ、それぞれ原因となる菌や症状が異なります。
① 水疱性膿痂疹(すいほうせいのうかしん):水ぶくれタイプ
- 原因菌:黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が主な原因です[1]。この菌が出す毒素(表皮剥脱毒素)が皮膚の細胞同士の結合を壊すことで、水ぶくれができます[2]。
- 症状:透明〜濁った水ぶくれができ、それが破れてジクジクしたただれ(びらん)になります。
- 好発年齢:乳幼児に多く見られます。
- 好発部位:顔、手足、わきの下など。夏場に多いのが特徴です。
② 痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん):かさぶたタイプ
- 原因菌:化膿レンサ球菌(Group A Streptococcus)が主な原因ですが、黄色ブドウ球菌との混合感染も多いです[1]。
- 症状:厚いかさぶた(痂皮)を伴うのが特徴で、炎症が強く、痛みや発熱、リンパ節の腫れを伴うこともあります。
- 好発年齢:年齢に関係なく発症しますが、アトピー性皮膚炎の方に合併しやすい傾向があります。
- 季節:季節を問わず発症します。
なぜ「とびひ」になるの? 原因は「傷口」と「細菌」
私たちの皮膚は、本来「バリア機能」によって細菌の侵入を防いでいます。健康で傷のない皮膚に、とびひの菌がついたとしても、通常は感染しません。
とびひが発症するのは、虫刺され、あせも、擦り傷、あるいはアトピー性皮膚炎などで**皮膚に小さな傷(バリアの破綻)がある場合**です。そこから細菌が侵入し、感染が成立します。
特にアトピー性皮膚炎のお子さまは、皮膚のバリア機能が低下しており、黄色ブドウ球菌が皮膚に定着している率が高いため(約70〜90%)、とびひを繰り返しやすい傾向にあります[4]。
【治療の基本】なぜ当院は「フシジン軟膏」を選ぶのか?
とびひの治療は抗菌薬(抗生物質)の使用が基本ですが、当院では**「耐性菌(薬が効かない菌)を増やさない」**という視点を非常に重要視しています。
塗り薬:フシジンレオ軟膏(フシジン酸)を第一選択にする理由
当院では、塗り薬の第一選択として「フシジンレオ軟膏(フシジン酸)」を使用します。
- フシジンレオ軟膏(フシジン酸):黄色ブドウ球菌に優れた効果を発揮します。
- ゼビアックスローション(オゼノキサシン):こちらも非常に強力ですが、**MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)にも効く「最後の切り札」**的なお薬です。
もし、最初から全員にゼビアックスを使い続けると、いざ重症のMRSA感染症が起きた時に、ゼビアックスさえ効かない「耐性菌」を生み出してしまうリスクがあります(Antimicrobial Stewardship)。そのため、通常のとびひにはフシジンレオを使用し、ゼビアックスはMRSAが疑われる場合や、除菌が必要なケースのために温存するというのが、医学的に理にかなった戦略なのです[5]。
以前はバクトロバン軟膏が有効でしたが、今日本では鼻腔内用のバクトロバン軟膏ありませんのでゼビアックスで代用せざるを得ません。
飲み薬:セファレキシン(ケフレックス®)が基本
病変が多数ある場合や、範囲が広い場合は、飲み薬(内服抗菌薬)を併用します。
第一選択薬は**セファレキシン(ケフレックス®など)**です。これは「セフェム系」の抗生物質で、とびひの主な原因である黄色ブドウ球菌とレンサ球菌の両方にバランスよく効果を発揮します[5]。
「治らない」ときはMRSAを疑う?耐性菌への対応
「抗生物質を飲んでいるのに、全然良くならない…」
そんな時は、原因菌が一般的な抗生物質が効かない**「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」**である可能性があります。
近年の研究では、とびひの原因菌の一部(地域によっては10〜20%以上)がMRSAであるという報告もあります[6]。通常の治療で改善しない場合は、細菌培養検査を行い、MRSAが確認されれば、以下の有効な薬剤へ変更します[5]。
- ホスミシン®(ホスホマイシン):感受性(効く確率)は約90%以上と高く、小児でも安全に使用できます。
- バクタ®(ST合剤):感受性は約95%以上と非常に高く、MRSAに切れ味の良い薬です。
ご家庭でのケア:お風呂、タオル、爪切り
薬の治療と同じくらい大切なのが、ご家庭でのスキンケアです。
お風呂・シャワーについて
「とびひは洗ってはいけない」は誤解です。石鹸をよく泡立てて患部を優しく洗い、シャワーでしっかり流して清潔に保つことが、菌を減らし治癒を早めるために重要です[8]。湯船に浸かると他のお子さまにうつる可能性があるため、治るまではシャワー浴を推奨します。
タオルの共用はなぜダメ?
「健康な肌ならうつらないのでは?」と思われるかもしれません。確かに菌がついただけでは感染しませんが、お子さまの肌には目に見えない微細な傷があることが多く、そこから容易に感染します。タオルには菌が付着しやすいため、家族間での共用は避けるべきであると、米国小児科学会(AAP)などのガイドラインでも推奨されています[9]。
患部を覆うことについて
「ガーゼで覆うと蒸れて治りが遅くなるのでは?」という心配もあるかと思います。しかし、とびひの滲出液(ジクジク)には大量の菌が含まれており、これが他の場所に付着すると感染が広がります。適切な軟膏を塗った上でガーゼで覆うことは、**「感染拡大の防止」**という観点で非常に重要であり、また湿潤環境を保つことは傷の治癒にもプラスに働きます。
登園・登校の基準:いつから行っていいの?
日本小児皮膚科学会の統一見解では、以下のように定められています。
「病変が広範囲に及ぶ場合や、全身症状(発熱など)がある場合は出席停止とする。病変部をガーゼなどで覆い、滲出液(ジクジク)が漏れ出ないように処置ができていれば、登園・登校は可能である。」
つまり、「適切な治療を開始し、患部が乾燥してかさぶたになるか、ガーゼで完全に覆える状態」であれば登園可能です。UpToDateのガイドラインでも、有効な治療を開始してから24時間経過すれば(感染力が低下するため)、登校可能としています(ただし患部は覆うこと)[9]。
TOPIC! 毒性の強いMRSA「USA300」とは
ブドウ球菌の話題になったので少しマニアックなお話ですが、
近年、特に注意が必要なMSSA、MRSAとして「USA300」というタイプがあります。
これは、とびひとはあまり関係ないんですがPVL(Panton-Valentine Leukocidin)という強力な毒素を産生するMRSAの一種です。元々はアメリカで流行していましたが、日本でも確認されています。この菌に感染すると、通常のとびひよりも炎症が激しくなりやすく、深い皮膚の膿瘍(おでき)を作ったり、壊死を起こしたりするなど、重症化しやすい特徴があります。
「普通のとびひと違うな」「急激に腫れて痛がっている」と感じた場合は、このUSA300などの強毒菌の可能性も考慮し、早急に医療機関を受診する必要があります。家族内は皮下膿瘍を繰り返したりうつったりした場合はUSA300を考えます。ただしこの菌を知っている人は感染症専門医くらいかもしれません。
とびひは、早期に適切な治療を行えば数日で良くなりますが、自己判断で放置したり、合わない薬を使ったりすると、全身に広がり長引くこともあります。
少しでも心配な症状があれば、ぜひお気軽に長田こどもクリニックにご相談ください。
皮膚のトラブルも小児科専門医にお任せください。
平日毎日夜20時まで、土曜も13時まで診療しています。
6台の無料駐車場をご用意しています。
〒167-0052 東京都杉並区南荻窪1-31-14
TEL: 03-3334-2030
参考文献
- 1)Bower AC, et al. The Global Epidemiology of Impetigo: A Systematic Review of the Population Prevalence of Impetigo and Pyoderma. PLoS One. 2015;10(8):e0136789.
- 2)Amagai M, et al. Toxin in bullous impetigo and staphylococcal scalded-skin syndrome targets desmoglein 1. Nat Med. 2000;6(11):1275-7.
- 3)Preda-Naumescu A, et al. Common Cutaneous Infections: Patient Presentation, Clinical Course, and Treatment Options. Med Clin North Am. 2021;105(4):783-797.
- 4)Totté JE, et al. Prevalence and odds of Staphylococcus aureus carriage in atopic dermatitis: a systematic review and meta-analysis. Br J Dermatol. 2016;175(4):687-95.
- 5)UpToDate. Impetigo. (Accessed on October 2025)
- 6)Liu Y, et al. Antimicrobial susceptibility of Staphylococcus aureus isolated from children with impetigo in China from 2003 to 2007 shows community-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus to be uncommon and heterogeneous. Br J Dermatol. 2009;161(6):1347-50.
- 7)Kikuta H, et al. Predominant Dissemination of PVL-Negative CC89 MRSA with SCCmec Type II in Children with Impetigo in Japan. Int J Pediatr. 2011;2011:143872.
- 8)Luby SP, et al. Effect of handwashing on child health: a randomised controlled trial. Lancet. 2005;366(9481):225-33.
- 9)American Academy of Pediatrics. Group A streptococcal infections. In: Red Book: 2024-2027.
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杉並区荻窪の小児科・アレルギー科

