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【小児科医が徹底解説】マイコプラズマの咳が止まらない!潜伏期間・検査・薬について|杉並区・荻窪 長田こどもクリニック

【小児科医が徹底解説】マイコプラズマの咳が止まらない!潜伏期間・検査・薬について|杉並区・荻窪 長田こどもクリニック

【小児科医が徹底解説】マイコプラズマの咳が止まらない!潜伏期間・検査・薬について|杉並区・荻窪 長田こどもクリニック

当院のブログが目指すこと

インターネットで医療情報を検索する中で、各施設の先生方の個人的な意見も多く、どこまでが客観的な事実なのか分かりにくい、と感じたことはありませんか?私たち杉並区荻窪の長田こどもクリニックは、そうした保護者の皆さまの不安に応えるため、明確なエビデンス(科学的根拠)に基づいたブログ作成を心がけています。この記事も、最新の医学論文の情報を基に、他の医療者から見ても妥当だと思っていただける高いレベルで、「マイコプラズマ感染症」について徹底解説します。

はじめに:「風邪だと思っていたのに…」長引く咳の正体

「熱は下がったのに、咳だけが一向に良くならない」「夜中や朝方に、咳き込んで起きてしまう」「咳がひどくて眠れない、吐いてしまう」…。お子さまのこんな症状が2週間以上も続くと、保護者の皆さまは「ただの風邪じゃないのかも?」と、大きな不安を感じますよね。

そんな “しつこい咳” の代表的な原因の一つが、「マイコプラズマ感染症」です。かつてはオリンピックの年に流行することから「オリンピック病」とも呼ばれましたが、現在では周期性がなくなり、一年を通して見られるようになりました。この記事では、多くの保護者の皆さまを悩ませるマイコプラズマについて、その正体から潜伏期間、最新の検査方法、そして薬(抗菌薬)の考え方まで、科学的根拠に基づいて徹底的に解説します。

マイコプラズマとは?ウイルスでも細菌でもない“小さな微生物”

マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)は、生物学的に非常にユニークな立ち位置にいます。ウイルスのように自分だけでは増殖できず、生物の細胞に寄生する必要がありますが、細菌のように栄養があれば自分で増殖することもできます。そして、多くの細菌が持っている「細胞壁」という硬い殻を持たないのが最大の特徴です[1]

この「細胞壁がない」という特徴が、マイコプラズマの治療を難しくする一つの要因になっています。一般的な風邪や中耳炎でよく使われるペニシリン系やセフェム系の抗菌薬(例:アモキシシリン、メイアクト®︎、セフゾン®︎など)は、この細胞壁を壊すことで効果を発揮します。しかし、マイコプラズマにはその標的となる細胞壁がないため、これらの抗菌薬は全く効きません。

感染経路と潜伏期間:いつ、どこでうつる?

感染経路と感染力

マイコプラズマは、感染している人の咳やくしゃみに含まれる細菌を吸い込むことによる**「飛沫感染」**と、細菌が付着したものを介して感染する**「接触感染」**によって広がります。感染者との濃厚接触が主な感染経路であり、家庭内での感染率は90%近くに達するという報告もあります[2]

感染力を持つ期間は比較的長く、症状が出始めた頃から、治療後も数週間にわたって菌を排出することがあります。中には、症状が全くないのに数ヶ月間も菌を保有し続ける「無症候性キャリア」のお子さまもいることが分かっています[3]

潜伏期間:ゆっくりと症状が現れる

マイコプラズマに感染してから症状が出始めるまでの**潜伏期間は、比較的長く、平均して2〜3週間**です[2]。そのため、どこで感染したのか特定するのが難しいことがよくあります。

特徴的な症状:なぜ「咳が止まらない」のか?

マイコプラズマ感染症は、典型的には以下のような経過をたどります。

  • 初期症状:発熱、頭痛、だるさ、のどの痛みなど、最初は普通の風邪と見分けがつかない症状から始まります[1]
  • 頑固な咳(咳嗽):初期症状から数日遅れて、乾いた咳(乾性咳嗽)が出始めます。この咳がマイコプラズマの最大の特徴で、一度始まると非常にしつこく続きます。特に、夜間から早朝にかけて悪化する傾向があり、咳き込みが激しくて眠れなかったり、吐いてしまったりすることも少なくありません。この咳は、熱などの他の症状が改善した後も、3〜4週間にわたって続くことがあります。

なぜ咳がこれほど長引くのでしょうか?それは、マイコプラズマが気道(空気の通り道)の粘膜上皮細胞に付着し、過酸化水素などを産生して細胞を傷つけ、繊毛運動を障害するためです。この直接的な細胞障害と、それに伴う免疫反応による炎症が、気道を非常に過敏な状態にし、少しの刺激でも激しい咳を誘発するようになると考えられています[2]

マイコプラズマの検査方法と、治療開始のタイミング

長引く咳の原因がマイコプラズマかどうかを調べるには、いくつかの検査方法があります。それぞれに長所と短所があるため、症状や経過に合わせて最適な検査を選択することが重要です。

  • 迅速抗原検査:手軽で早く結果が分かるのがメリットですが、感度が低く、見逃しが多いという大きな欠点があります。この検査で陰性でも、「マイコプラズマではない」とは言い切れません。
  • 抗体検査(ペア血清):最も確実な診断法の一つですが、結果が出るまでに時間がかかり、2回の採血が必要という負担があります。
  • LAMP法・PCR法(核酸増幅検査):感度・特異度ともに非常に高く、**現在のところ、急性期の診断において最も信頼性の高い検査法**とされています[4]

検査結果を待たずに治療を開始することが多い理由

LAMP法やPCR法は非常に優れた検査ですが、結果が出るまでに数日かかります。アジスロマイシン(ジスロマック®︎)など、よく使われる抗菌薬は3日間の内服で治療が完了します。そのため、症状や周りの流行状況からマイコプラズマ感染症が強く疑われる場合は、**検査結果を待たずに、臨床診断に基づいて治療を開始することがほとんどです。** 時には、症状が非常に典型的であれば、検査を行わずに治療を開始することもあります。これは、お子さまのつらい症状を一日でも早く和らげるための、実臨床における合理的な判断です。

マイコプラズマの薬(抗菌薬)について知っておくべきこと

効果のある抗菌薬の種類

細胞壁を持たないマイコプラズマには、細胞の蛋白合成を阻害するタイプの抗菌薬が有効です。主に**マクロライド系**(ジスロマック®︎など)、**テトラサイクリン系**、**ニューキノロン系**が使われます。

【重要】マクロライド耐性の問題と、抗菌薬を使わない選択肢

近年、特に日本を含むアジア地域で、マクロライド系抗菌薬が効かない「耐性マイコプラズマ」が非常に増えていることが大きな問題となっています。日本の国立感染症研究所のデータによると、地域や年によって変動はありますが、近年では**マクロライド耐性率が80%を超える**ことも報告されています[5]。マクロライド系を処方されても熱が下がらない場合は、この耐性菌が原因である可能性を考える必要があります。

【新しい常識】テトラサイクリン系抗菌薬は8歳未満でも使えます

かつて、テトラサイクリン系の抗菌薬であるドキシサイクリンは、8歳未満のお子さまに使用すると歯が黄色くなる(歯牙黄染)副作用のリスクがあるため、原則として使用されていませんでした。しかし、その後の多くの研究により、**短期間(21日以内)の使用であれば、永久的な歯の着色のリスクは極めて低い**ことが分かりました。この知見に基づき、米国小児科学会(AAP)は、年齢に関わらず、必要な場合にはドキシサイクリンを使用できる、との見解を示しています[6]。これにより、マクロライド耐性が疑われる場合の治療の選択肢が広がりました。

本当に抗菌薬は必要?自然に治ることも多いです

実は、マイコプラズマ感染症は、抗菌薬を使わなくても、多くは自然に回復する病気**です。抗菌薬治療の最大のメリットは、症状のある期間を数日短縮することです[7]。そのため、症状が比較的軽く、全身状態が良好な場合は、あえて抗菌薬を使わずに、咳止めなどの対症療法で経過を見る、というのも国際的には標準的な選択肢の一つです。これは、不要な抗菌薬の使用を減らし、さらなる薬剤耐性の拡大を防ぐという重要な目的もあります。

当院では、お子さまの重症度、年齢、そして地域の耐性菌の動向などを総合的に判断し、ご家族と相談の上で、一人ひとりに最適な治療方針を決定します。

長引く咳、マイコプラズマかも?と思ったら

お子さまの咳が2週間以上も続く時、保護者の皆さまの心労は計り知れません。そんな時は、どうか一人で悩まず、私たち専門家にご相談ください。

長引く咳の原因は、マイコプラズマだけではありません。咳喘息、アレルギー、副鼻腔炎(蓄膿症)など、様々な可能性が考えられます。私たちは、丁寧な診察と適切な検査を通して、咳の本当の原因を見つけ出し、最も効果的な治療へと導きます。

お忙しい保護者の皆さまへ:当院の診療体制

お仕事やご兄弟の送迎などで、日中の受診が難しい保護者の皆さまにも安心してご利用いただけるよう、当院は柔軟な診療時間とアクセス環境を整えています。

  • 平日(月〜金)は、夜20時まで診療
  • 土曜日も、13時まで診療
  • クリニック前に、無料の専用駐車場を6台完備

杉並区荻窪で、お子さまのつらい咳と、保護者の皆さまの不安に、いつでも寄り添います。

長田こどもクリニック
杉並区荻窪の小児科・アレルギー科

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