【小児科医が解説】アトピーの「かゆみ」を止める注射新薬「ミチーガ®」の効果と対象年齢。デュピクセントとの違いは?|杉並区・荻窪
私たち杉並区荻窪の長田こどもクリニックは、小児アトピー性皮膚炎の治療に長年力を入れてまいりました。インターネットで医療情報を検索する中で、多くの情報が個人の経験談であったり、医学的根拠が不明瞭であったりして、「どれが本当に信頼できる情報なのか分かりにくい」と感じたことはありませんか?
当院のブログは、そうした保護者の皆さまの不安に応えるため、明確なエビデンス(科学的根拠)に基づいた情報発信を心がけています。この記事も、世界中の医師が信頼を寄せる最新の医学論文レビュー「UpToDate」や、国内外の主要なガイドラインに引用されている**原著論文**を基に、他の医療者から見ても妥当だと思っていただけるレベルで、新しい注射薬「ミチーガ®」について徹底解説します。
「肌はだいぶきれいになったけれど、どうしてもかゆみが残る」「夜中にボリボリ掻いてしまって、朝起きると血が出ている」
アトピー性皮膚炎の治療で、最も患者さんを苦しめるのが「かゆみ」です。
これまでの治療では抑えきれなかった、このしつこい「かゆみ」そのものをターゲットにした新しい注射薬「ミチーガ®(ネモリズマブ)」が登場し、小児への適応も拡大されました。
目次
ミチーガ®(ネモリズマブ)とは?「かゆみ」を断つ新しいアプローチ
ミチーガ®(一般名:ネモリズマブ)は、アトピー性皮膚炎の「かゆみ」に深く関わる物質をターゲットにした、世界初の抗体医薬(生物学的製剤)です。
アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚では、「IL-31(インターロイキン31)」という物質が増えています。このIL-31は「かゆみ誘発サイトカイン」とも呼ばれ、神経を直接刺激して、耐え難いかゆみを引き起こします。
ミチーガ®は、このIL-31が神経にある「鍵穴(受容体)」にくっつくのをブロックします。つまり、「かゆみの指令が神経に伝わるのを元から断つ」ことで、かゆみを強力に抑える薬です[1]。
デュピクセント®と何が違う?作用機序の比較
アトピー性皮膚炎の注射薬としては、すでに「デュピクセント®」が有名ですが、この2つは作用するポイントが異なります。
| 薬剤名 | デュピクセント® | ミチーガ® |
|---|---|---|
| ターゲット | IL-4 / IL-13 | IL-31 |
| 主な作用 | 「炎症」を根本から抑える (結果としてかゆみも減る) |
「かゆみ」を直接抑える (掻かなくなることで炎症も減る) |
【エビデンス】どれくらい効く?最新の臨床データ解説
ミチーガ®の効果については、国内外で多くの臨床試験が行われています。最新のデータをご紹介します。
1. かゆみに対する高い効果
日本で行われた13歳以上を対象とした臨床試験では、ミチーガ®を使用したグループは、プラセボ(偽薬)グループに比べて、かゆみのスコア(VAS)が約2倍改善した(43%改善 vs 21%改善)という結果が出ています[2]。
また、最新の大規模な国際共同試験(ARCADIA試験)でも、治療16週間後において、ミチーガ®を使用した患者さんの多くが、皮膚の状態(IGAスコア)とかゆみの両方で有意な改善を示しました[3]。
2. ステロイド外用薬の減量効果について
「ミチーガを使えばステロイドをやめられますか?」というご質問をよくいただきますが、現時点での臨床データでは、ミチーガの使用によってステロイド外用薬の使用量が「有意に減った」と断定できるまでの明確なエビデンスはまだ確立されていません。
しかし、ミチーガ®は「かゆみ止め」として非常に強力です。かゆみが治まることで「掻きむしり(ひっかき)」が減ります。アトピー性皮膚炎は「掻くことでバリアが壊れ、さらに炎症が悪化する」という悪循環(イッチ・スクラッチ・サイクル)が病態の中心にあるため、かゆみを止めることが結果的に皮膚の炎症を改善させ、将来的にステロイド外用薬に頼らない状態を目指しやすくなることは十分に期待できます[3][4]。
対象年齢と投与方法:子どもでも使える?
対象年齢の拡大
当初は13歳以上が対象でしたが、2024年3月に日本国内での適応が拡大され、現在は「6歳以上」の小児アトピー性皮膚炎患者さんにも使用できるようになりました。
投与方法
- 皮下注射: 4週間に1回、医療機関またはご自宅(自己注射)で投与します。
- 用量: 13歳以上の場合、60mgを投与し、2回目以降は60mgを4週間ごとに投与します。13歳未満の場合は投与量が30mgとないます。投与間隔は一緒です。
費用と副作用について
費用(医療費助成が使えます)
新薬であるため、薬剤費は高額です。しかし、日本には充実した医療費助成制度があります。
- 子ども医療費助成(マル乳・マル子): 杉並区をはじめ多くの自治体では、中学生(地域によっては高校生)まで医療費の自己負担が助成されます。これにより、窓口での負担はほとんどありません。
主な副作用
臨床試験では、安全性は概ね良好とされていますが、以下の副作用に注意が必要です。
- アトピー性皮膚炎の悪化: ミチーガ®はかゆみを強力に抑えますが、炎症を直接抑える作用は限定的です。そのため、かゆみが止まったからといって、ステロイド外用薬などの抗炎症治療を自己判断で減らしたり中止したりすると、炎症が再燃し、結果として皮膚の状態が悪化してしまうことがあります。症状が良くなっても、医師の指示通りに外用療法(スキンケア)を継続することが極めて重要です。
- 注射部位反応: 注射した場所が赤くなったり腫れたりすることがあります。
- その他、まれですが頭痛や喘息症状の悪化などが報告されています[3]。
【最重要】当院の導入方針:あくまで「基本治療」が主役です
ミチーガ®は、かゆみに苦しむ患者さんにとって画期的な薬です。しかし、当院では「かゆいから、とりあえずミチーガ」という安易な使い方は推奨しません。
アトピー性皮膚炎治療の基本は、あくまで「ステロイド外用薬などによる抗炎症治療」と「スキンケア」です。
「薬を塗ってもかゆい」という患者さんの多くは、実は「塗る量が足りない」「塗り方が正しくない」ために炎症がくすぶっていることがほとんどです。
当院では、まず「プロアクティブ療法」に基づいた標準治療を徹底します。正しいスキンケアと外用療法を数ヶ月行っても、なお「かゆみ」だけが強く残る場合に限り、ミチーガ®の導入を慎重に検討します。
高額な医療費や、注射という負担を考慮し、本当に必要なタイミングでのみ提案させていただきます。
「他院で治らない」とお悩みの方も、まずは当院の標準治療で改善する可能性が十分にあります。ぜひ一度ご相談ください。
アトピー性皮膚炎の治療、新薬のご相談も受け付けております。
平日夜20時まで、土曜も13時まで診療。
〒167-0052 東京都杉並区南荻窪1-31-14
TEL: 03-3334-2030
参考文献
- Reynolds, RV, et al. Guidelines of care for the management of acne vulgaris. J Am Acad Dermatol. 2024;90(5):1006.e1-1006.e30. (※IL-31受容体に関する基礎的知見として参照)
- Kabashima K, et al. Trial of Nemolizumab and Topical Agents for Atopic Dermatitis with Pruritus. N Engl J Med. 2020;383(2):141-150.
- Silverberg JI, et al. Nemolizumab with concomitant topical therapy in adolescents and adults with moderate-to-severe atopic dermatitis (ARCADIA 1 and ARCADIA 2): results from two replicate, double-blind, randomised controlled phase 3 trials. Lancet. 2024;404(10451):445-460.
- Silverberg JI, et al. Phase 2B randomized study of nemolizumab in adults with moderate-to-severe atopic dermatitis and severe pruritus. J Allergy Clin Immunol. 2020;145(1):173-182.
長田こどもクリニック
杉並区荻窪の小児科・アレルギー科

