【専門医解説】苺状血管腫はレーザーより飲み薬?「痛くない」最新治療と開始リミット(生後5ヶ月)
「赤ちゃんの肌に赤いあざがある」「日に日に盛り上がってきている気がする…」
大切なお子さんの肌の変化、とても心配ですよね。長田こどもクリニック副院長の長田洋資です。
かつては「放っておけば消える」あるいは「レーザーで焼く」と言われてきた乳児血管腫(いちご状血管腫)ですが、最新の世界的なエビデンスでは治療の常識が大きく変わっています。
現在は「増殖期に早期介入することで、将来的な痕(あと)や機能障害を防ぐ」ことがスタンダードであり、その主役は痛みを伴うレーザーではなく「飲み薬」です。
当院では、最新の医学的根拠に基づき、飲み薬による治療(ヘマンジオルシロップ)を開始いたします。なぜレーザー治療の必要性が低くなり、小児科での内服治療が推奨されるのか。その理由を詳しく解説します。
私たち長田こどもクリニックは、小児科診療において、1個人の意見ではなく、常に科学的根拠(エビデンス)に基づいた診断と治療を最優先にしています。
インターネットで医療情報を検索する中で、多くの情報が個人の経験談であったり、根拠の不確かな情報も少なくありません。「いちご状血管腫の治療」に関するこの記事も、世界中の医師が信頼を寄せる最新の医学論文レビューや国内外の診療ガイドラインを基に、他の医療者から見ても妥当だと思っていただけるレベルで、日本一詳しく、そして正確に解説することを目指します。
1. 苺状血管腫の最新治療戦略
苺状血管腫(乳児血管腫)は、生後数週間で現れ、生後5〜6ヶ月頃(増殖期)まで急速に大きくなる良性の血管腫瘍です。その後、数年かけてゆっくりと縮小しますが、完全に元通りの皮膚に戻るとは限りません。
「自然に消える」と言っても、風船がしぼんだ後のように「シワシワの皮膚」や「脂肪の塊」が残ることがあります。一度伸びてしまった皮膚は、元には戻りません。報告では、未治療の場合、皮膚のたるみや瘢痕(きずあと)が残る確率が50%を超えるとも言われています[4]。
だからこそ、「膨らむ前にしぼませる」早期治療が必要なのです。
2. 【重要】治療開始のタイムリミット(5週〜5ヶ月)
現在、治療の第一選択薬(ゴールドスタンダード)となっているのが、βブロッカーという成分を含む飲み薬「ヘマンジオルシロップ」です。いつから始めるべきかについて、医学的根拠(エビデンス)に基づいて解説します。
推奨される治療開始時期:生後5週 〜 生後5ヶ月
この期間に治療を開始することが最も推奨されます。根拠となるのは、ヘマンジオルシロップ(プロプラノロール)の有効性と安全性を確立し、世界的な承認のもととなったランドマーク研究(NEJM誌 2015年)です。
この臨床試験では、治療開始時の月齢が「生後35日(5週)から150日(5ヶ月)まで」の乳児を対象として、劇的な効果が実証されました[1]。
また、米国小児科学会(AAP)の最新ガイドライン(2019年)においても、「生後4〜6週までの早期開始が理想的である」と強く推奨されています[2]。
「5ヶ月から」ではなく、「5ヶ月まで」に開始することが極めて重要です。血管腫の増殖が止まる生後5〜6ヶ月を過ぎてから開始しても、効果は限定的になってしまいます。まだ小さいからと様子を見ず、生後1〜3ヶ月の間に一度ご相談ください。
3. なぜ「小児科」で治療すべきなのか?(皮膚科との違い)
ここが最も重要なポイントです。「皮膚の病気だから皮膚科」と思われがちですが、ヘマンジオルシロップ(プロプラノロール)は全身に作用するお薬です。もともとは心臓の薬として開発された成分であり、治療中は「小児の全身管理」が不可欠です。
診療科によって、治療のアプローチは大きく異なります。
| 皮膚科・形成外科の視点 | 小児科(当院)の視点 | |
|---|---|---|
| アプローチ | 局所治療 「皮膚の赤み」をどう消すか |
全身管理 「全身の成長と安全」を守りながら治す |
| 強み | レーザー機器の扱い、手術 | 心臓・呼吸器の管理、体調不良時の対応 |
| 副作用対応 | 専門外の場合、他院紹介になることも | 低血糖、喘息、ワクチンスケジュールまでトータルで管理 |
当院のような小児科専門医が治療を行う理由は、以下の副作用リスクを適切に評価・管理できるからです。
① 低血糖(Hypoglycemia)のリスク管理
プロプラノロールは、空腹時に血糖値を維持する体の働きをブロックしてしまう作用があります。赤ちゃんにとって低血糖は脳へのダメージにもつながりかねない重大な問題です。
小児科医の視点:「ミルクを飲む量」「授乳間隔」「体調不良時の対応」など、生活リズムに合わせた詳細な指導(シックデイ・ルール)ができるのは小児科の強みです。
② 徐脈・低血圧・呼吸器の管理
心拍数を下げる作用や、気管支を収縮させる作用があります。
小児科医の視点:呼吸音のわずかな異常(喘鳴)を聞き分け、喘息のリスクがあるお子さんを見極めるのは、日々多くの子どもの呼吸器疾患を診ている小児科医ならではの専門領域です。
4. 「レーザーなら安心」は誤解です。レーザーの限界と内服の優位性
「飲み薬は副作用が心配だから、レーザーで治療したい」と希望される保護者の方がいらっしゃいます。しかし、最新の医学的知見(UpToDateおよびガイドライン)において、レーザー治療(パルス色素レーザー:PDL)は、増殖期の血管腫に対する第一選択ではありません。
なぜレーザーでは治らないのか?(1.2mmの壁)
最大の理由は、物理的な「深さ」の問題です。
医学文献UpToDateには、「レーザーの深達度(光が届く深さ)はわずか1.2mmである」と明記されています。いちご状血管腫の特徴である「盛り上がり」や「しこり」は、皮膚の深い部分(真皮深層〜皮下組織)で増殖しています。
つまり、レーザーは表面の赤みを焼くだけで、奥にある増殖の本体(芯)には届かず、増大を止めることができないのです。
現在のスタンダード:形状にかかわらず「内服」が第一選択
これに対し、内服薬(プロプラノロール)は血流に乗って全身に作用するため、深部にある血管腫にも効果を発揮し、増殖を強力に抑え込みます。
そのため、ガイドラインでは以下のように位置づけられています。
| 血管腫のタイプ | 内服治療(プロプラノロール) | レーザー治療(V-beam等) |
|---|---|---|
| 厚みがある / 深い (一般的ないちご状血管腫) |
◎ 第一選択 (Gold Standard) Grade 1A(強い推奨)。深部まで作用し増大を防ぐ。 |
× 推奨されない 深部(1.2mm以深)に届かず無効。 |
| 薄い / 平坦 / 初期 |
△ 慎重に検討 効果はあるが、軽微なものに全身性の副作用リスクを負うかは要検討。 |
◯ 選択肢の一つ ごく初期の薄いものには有効な場合がある。 |
「盛り上がってきた」「しこりがある」と感じる血管腫に対し、レーザー治療の必要性はかなり低いです。治療が必要なレベルの血管腫においては、プロプラノロール(内服)が圧倒的な第一選択となります。
5. 当院の厳格なリスク評価と外来導入スケジュール
ヘマンジオルシロップは素晴らしい薬ですが、すべての赤ちゃんに外来(通院)で開始できるわけではありません。当院では、お子さんの安全を最優先するため、独自の厳格な基準を設けています。
当院で外来治療(通院)が可能な方
以下の条件をすべて満たす場合、当院にて日帰りでの導入・増量が可能です。
- 正期産児(37週以降で生まれた)
- 現在の体重が十分にある(2.5kg以上)
- 心疾患や呼吸器疾患がない
- ご家族が低血糖予防(頻回授乳など)の指導を実践できる
入院での導入をお勧めする「ハイリスク群」
以下のいずれかに当てはまる場合は、副作用のリスクが高まるため、連携する高次医療機関での入院導入(数日間)を必ずご紹介しています。無理な外来治療は行いません。
- 早産児(在胎週数修正で判断します)
- 低出生体重児(特に体重2.5kg未満のお子さん)
- 併存疾患がある場合(心疾患、呼吸器疾患、血糖調節障害など)
- 生後4週未満の場合
- 社会的要因(遠方、家族のサポートが得にくい等)で頻回の観察が難しい場合
6. よくある質問(Q&A)
7. まとめ:当院で治療を受けるメリット
苺状血管腫の治療は、時間との勝負です。「様子を見ている」間に治療に最適な時期を逃してしまうことが最大のリスクです。
長田こどもクリニックで治療を受けていただく最大のメリットは、「小児科専門医による全身管理」と「適切なリスク選別」にあります。
- 全身状態のプロフェッショナル: 皮膚だけでなく、心臓・呼吸器・成長発達を含めたトータルケアを行います。喘息や風邪の時の薬の調整も安心してお任せください。
- 安全第一の判断: 無理にクリニックで完結させようとせず、リスクが高いお子さんは躊躇なく適切な入院施設へ紹介します。この「線引き」こそが安全の担保です。
- エビデンスに基づく治療選択: 漫然と効かないレーザーを行わず、最新の医学的根拠に基づいた「内服治療」を第一に提案します。
大切なお子さんのお顔や体のことですから、まずは一度、私たちにご相談ください。最新のエビデンスに基づき、お子さん一人ひとりにベストな治療方針をご提案します。
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紹介状をお持ちの方はご持参ください(なくても受診可能です)。
- [1] Léauté-Labrèze C, et al. A randomized, controlled trial of oral propranolol in infantile hemangioma. N Engl J Med. 2015;372(8):735-46.
(論文リンク: NEJM.org) ※試験対象年齢: 35日〜150日 - [2] Krowchuk DP, et al. Clinical Practice Guideline for the Management of Infantile Hemangiomas. Pediatrics. 2019;143(1):e20183475.
(ガイドラインリンク: AAP.org) - [3] 日本皮膚科学会. 血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017.
(PDFリンク: 日本皮膚科学会) - [4] Baselga E, et al. Risk Factors for Degree and Type of Sequelae After Involution of Untreated Hemangiomas of Infancy. JAMA Dermatol. 2016;152(11):1239-45.
長田こどもクリニック
〒167-0052 東京都杉並区南荻窪1-31-14
副院長:長田 洋資(小児科専門医)

