アトピーにフェキソフェナジン(飲み薬)は効かない?抗ヒスタミン薬の正しい効果とやめどき【医師解説】
アトピー性皮膚炎の治療において、保護者の方からよくいただく質問があります。
「塗り薬を頑張っているけれど、夜中になると痒がって起きてしまう」「フェキソフェナジン(アレグラ)などの飲み薬を処方されたけれど、あまり効いていない気がする…」
実は、アトピー性皮膚炎の痒みに対して、「飲み薬(抗ヒスタミン薬)はあまり効かない」というのが、現在の世界の医学的常識(エビデンス)です。
では、なぜ病院では飲み薬が処方されるのでしょうか?今回は、小児科専門医の視点から、抗ヒスタミン薬の「本当の役割」と「薬の強さ・副作用」、そして「正しいやめどき」について、最新のガイドラインに基づいて解説します。
目次
1. 【結論】アトピーの痒みに「飲み薬」は効かない?最新エビデンス
結論から申し上げますと、抗ヒスタミン薬(飲み薬)は、アトピー性皮膚炎の痒みを劇的に止める特効薬ではありません。
米国皮膚科学会(AAD)や欧州のガイドラインでは、アトピー性皮膚炎の痒み対策として抗ヒスタミン薬を使用することは推奨されていません[1][2]。特に、近年主流となっている眠気の少ない「第2世代抗ヒスタミン薬(フェキソフェナジン、ロラタジンなど)」に関しては、アトピーの痒みに対する効果は限定的であることが多くの研究で示されています。
日本の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」においても、飲み薬はあくまで「補助療法」(行ってもよいが、必須ではない)という位置づけにとどまっています[3]。
2. なぜ効かないのか?「ヒスタミン」と「サイトカイン」の違い
「蕁麻疹(じんましん)」には飲み薬がよく効くのに、なぜアトピーには効きにくいのでしょうか。それは、痒みを引き起こしている「原因物質」が違うからです。
蕁麻疹の痒み=「ヒスタミン」
蕁麻疹の痒みは、主に「ヒスタミン」という物質が原因です。そのため、ヒスタミンの働きをブロックする「抗ヒスタミン薬」が非常によく効きます。
アトピーの痒み=「サイトカイン(IL-31など)」
一方、アトピー性皮膚炎の痒みはもっと複雑です。ヒスタミンも一部関与しますが、主役は「サイトカイン(特にIL-31)」と呼ばれる免疫物質や、神経の過敏性です[4]。一般的な抗ヒスタミン薬は、このサイトカインによる痒みには作用しません。
そのため、飲み薬を飲んでも「なんとなく効いている気がする」程度の効果しか感じられないことが多いのです。
3. それでも「フェキソフェナジン」などが処方される2つの理由
「効かないなら、なぜ処方されるの?」と思われるかもしれません。小児科や皮膚科で処方されるには、明確な2つの理由があります。
理由①:合併するアレルギー(鼻炎・蕁麻疹)を治すため
アトピー性皮膚炎のお子様は、アレルギー性鼻炎(花粉症)や慢性的な蕁麻疹を合併していることが非常に多いです(アレルギーマーチ)。
- 鼻詰まりで口呼吸になり、睡眠の質が下がる。
- 蕁麻疹が混ざっていて、その痒みがアトピーを悪化させる。
このような場合、抗ヒスタミン薬で「合併症」をコントロールすることで、結果的にアトピーの状態も安定しやすくなります。
理由②:眠くなる作用を利用して「睡眠」を守るため
痒みで夜も眠れない重症例では、あえて少し眠気の出るタイプ(第1世代抗ヒスタミン薬)を短期間使用し、「副作用(鎮静作用)を利用して眠らせる」ことで、無意識の掻きむしりを防ぐことがあります[2]。
これは「痒みを止める」のではなく「眠りを助ける」ための使用法です。ただし、お子様の学習への影響(インペアード・パフォーマンス)や安全性に十分な配慮が必要なため、長期間の漫然とした使用は推奨されません。
4. 医師が答える!アトピー飲み薬Q&A(強さ・やめどき)
A. 「強さ」は「眠気の強さ」と比例する傾向があります。
抗ヒスタミン薬において、一般的に「効果が強い」とされる薬(第1世代など)は、脳への影響も強く「眠気」が出やすい傾向にあります。フェキソフェナジン(アレグラ)などの新しい薬(第2世代)は、脳に入りにくいため眠気が少なく、効果はマイルドですが、日常生活(勉強や運転)への支障がない安全なお薬です。
A. しません。ご安心ください。
抗ヒスタミン薬は、ステロイド外用薬のように炎症そのものを抑え込む強い力はありません。そのため、急にやめたからといって炎症が爆発する(リバウンド)ようなことはありません。アトピーが悪化するとすれば、それは飲み薬をやめたからではなく、塗り薬(スキンケア)が不十分だった可能性が高いです。
A. 鼻炎などの合併症がなければ、皮膚がきれいになった時点で中止可能です。
アトピー単独の治療であれば、皮膚の炎症が治まり、痒みがなくなれば飲み薬は卒業できます。ただし、アレルギー性鼻炎などを合併している場合は、その治療のために継続が必要なことがあります。自己判断せず、主治医と相談して減量しましょう。
5. まとめ:痒みを止める主役は「外用療法(塗り薬)」
「飲み薬を飲んでいるから大丈夫」と安心してしまうのが、一番のリスクです。
アトピー性皮膚炎の治療の主役は、あくまで「外用療法(ステロイド、JAK阻害薬、タクロリムスなど)」です。皮膚の表面で起きている「火事(炎症)」を塗り薬でしっかり消火することこそが、痒みを止める唯一の根本治療です。
飲み薬はあくまで「サポーター」です。効果を正しく理解し、主治医と相談しながら、お子様にとってベストな治療を選択していきましょう。当院では、エビデンスに基づいた正しいスキンケアと薬の使い方を丁寧に指導しています。
当院の「小児アトピー専門外来」について
「薬を塗っても治らない」「ステロイドの副作用が心配」という方へ。当院では、初診時に十分な時間をとり、エビデンスに基づいた「プロアクティブ療法」を丁寧にご指導します。
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引用文献
- Sidbury R, et al. Guidelines of care for the management of atopic dermatitis in adults with topical therapies. J Am Acad Dermatol. 2023;89(1):e1-e20.
- Wollenberg A, et al. Consensus-based European guidelines for treatment of atopic eczema (atopic dermatitis) in adults and children: part II. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2018;32(6):850-878.
- 日本皮膚科学会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024.
- Oetjen LK, et al. Sensory Neurons Co-opt Classical Immune Signaling Pathways to Mediate Chronic Itch. Cell. 2017;171(1):217-228.
長田こどもクリニック
杉並区荻窪の小児科・アレルギー科

