【小児科医が解説】インフルエンザワクチンの効果と副反応。鼻スプレー式(フルミスト)との違いは?|杉並区・荻窪 長田こどもクリニック
秋が深まり、空気が乾燥してくると、保護者の皆さまの頭をよぎるのが「今年のインフルエンザはどうだろう?」という心配ではないでしょうか。「ワクチンは打った方がいいの?」「効果は本当にあるの?」「副反応が心配…」など、毎年多くのご質問をいただきます。
私たち杉並区荻窪の長田こどもクリニックは、エビデンス(科学的根拠)に基づいた正確な情報提供を大切にしています。この記事では、インフルエンザワクチンに関する保護者の皆さまの様々な疑問に対し、最新の医学的知見と日本の現状を踏まえ、詳しく、そして分かりやすくお答えします。
目次
インフルエンザワクチン、そもそもなぜ毎年打つの?
インフルエンザワクチンを毎年接種するのには、主に2つの明確な理由があります。
理由1:ウイルスが毎年少しずつ姿を変えるから(抗原変異)
インフルエンザウイルスは、例えるなら“変装の名人”です。毎年少しずつ外見(抗原)を変化させて、私たちの体の免疫システムから逃れようとします。そのため、去年ワクチンを打って獲得した免疫が、今年のウイルスには効きにくくなってしまうのです。このウイルスの変化を予測し、毎年その年に流行しそうなタイプに合わせてワクチンを作り直しているため、私たちも毎年接種する必要があります。
理由2:ワクチンの効果が時間と共に弱まるから
ワクチン接種によって作られた免疫(抗体)は、残念ながら一生続くわけではありません。個人差はありますが、一般的にワクチンの予防効果が持続するのは約5ヶ月程度と考えられています。そのため、毎年流行シーズンが始まる前に新たに接種し、免疫レベルをしっかり上げておくことが重要になるのです。
ワクチンの「本当の効果」とは?重症化を防ぐという最大の目的
「ワクチンを打ったのに、インフルエンザにかかってしまった」という話を聞いたことがあるかもしれません。これは事実であり、インフルエンザワクチンは、感染を100%防ぐものではありません。では、何のために接種するのでしょうか?
ワクチンの最大の目的は、感染そのものを完全に防ぐことよりも、感染してしまった場合に重症化し、入院や脳症などの重い合併症に至るのを防ぐことにあります。
私は今も大学病院のPICU(小児集中治療室)で勤務をしていますが、毎年必ずインフルエンザ脳症で亡くなるお子様を見てきました。全てのお子様がワクチンを打っていないお子様でした。
この「重症化予防効果」については、非常に信頼性の高いデータが数多く報告されています。
- 入院のリスクを大幅に減らす:ある大規模な研究のメタ解析(複数の研究を統合して分析したもの)では、インフルエンザワクチンを接種することで、インフルエンザによるお子さまの入院リスクが53%減少したと報告されています[1]。
- 死亡のリスクを減らす:さらに、ワクチン接種は、健康な子どもたちのインフルエンザ関連死のリスクを65%、持病のある子どもたちでは51%減少させたという報告もあります[2]。
つまり、インフルエンザワクチンは、お子さまの命と健康を重篤な状態から守るための、最も効果的な「お守り」なのです。
【日本のルール】子どもの接種回数とスケジュール
お子さまのインフルエンザワクチンの接種回数や間隔は、年齢によって異なります。以下は、日本の厚生労働省や日本小児科学会が推奨する標準的なスケジュールです。
注射インフルエンザワクチン
- 生後6ヶ月〜13歳未満:2回接種
1回目の接種から、2〜4週間の間隔をあけて2回目を接種します。免疫をしっかりとつけるために、2回接種が推奨されています。 - 13歳以上:1回接種
13歳以上では、1回の接種で十分な免疫が得られるとされています。
経鼻インフルエンザワクチン(フルミスト)
- 2歳以上19歳未満:1回接種
接種のタイミングとしては、インフルエンザが本格的に流行し始める前の、10月から12月上旬までに接種を完了させておくのが理想的です。
ワクチンの副反応について知っておくべきこと
ワクチン接種後の副反応は、保護者の皆さまが最も心配される点の一つでしょう。ほとんどは、体が免疫を作っている正常な反応であり、数日で自然に治まります。
注射インフルエンザワクチンによく見られる副反応
- 局所反応(接種した場所の反応):注射した部位の赤み、腫れ、痛みが最も一般的です。通常1〜3日で自然に軽快します。
- 全身反応:発熱、頭痛、倦怠感(だるさ)、寒気などが起こることがあります。特に、初めてワクチンを接種する小さなお子さまに見られやすいですが、こちらも通常2〜3日で治まります。
知っておきたい特別なこと
- 卵アレルギーとワクチン:現在の日本のインフルエンザワクチンは、製造過程でごく微量の卵成分が残る可能性がありますが、その量は極めて少なく、重篤な卵アレルギー症状(アナフィラキシーなど)を起こすリスクは極めて低いことが分かっています。そのため、**医師と相談の上で、ほとんどの卵アレルギーのお子さまは安全に接種可能**です。重度のアレルギーがご心配な場合は、接種後の経過観察を慎重に行うなど、個別に配慮いたしますのでご相談ください。
- チメロサール(防腐剤)について:一部のワクチンに含まれるチメロサールと健康への影響について心配される声がありますが、これまでの膨大な研究から、ワクチンに含まれる量のチメロサールが健康に害を及ぼすという科学的根拠は示されていません。
鼻から吸うワクチン「フルミスト」とは?注射と何が違う?
近年、注射ではない「鼻スプレー式」のインフルエンザワクチン(製品名:フルミスト)について耳にする機会が増えたかもしれません。これはどのようなワクチンなのでしょうか。
フルミストの正体:生ワクチン
フルミストは、病原性を極限まで弱めたウイルスを鼻の粘膜に吹き付けることで、実際の感染に近い形で免疫をつける「生ワクチン」です。一方、日本でこれまで一般的に行われてきた注射のワクチンは、ウイルスの感染力を完全になくした「不活化ワクチン」です。
注射と鼻スプレー、どちらがいい?
アメリカ小児科学会(AAP)は、2025-2026年シーズンにおいて、注射(不活化ワクチン)と鼻スプレー式(生ワクチン)のどちらかを優先的に推奨する、ということはしていません[6]。それぞれにメリット・デメリットがあります。
- 鼻スプレー式(フルミスト)の長所と短所
長所:注射の痛みがなく、自然感染に近い免疫(特に鼻粘膜での局所免疫)が期待できる。
短所:生ワクチンのため、2歳未満、喘息のあるお子さま、免疫不全の方などは接種できません。また、鼻水や鼻づまりといった副反応が出ることが多い。 - 注射(不活化ワクチン)の長所と短所
長所:生後6ヶ月から接種可能で、喘息などの持病があるお子さまにも安全に接種できます。副反応のデータも豊富で、国が承認した安心感があります。
短所:注射の痛みを伴います。
長田こどもクリニックの予防接種:安心のための対話
予防接種のご相談から、接種スケジュールの調整まで、どんな些細なことでも構いません。エビデンスに基づいた正確な情報をお伝えし、ご家族が納得して予防接種を受けられるよう、全力でサポートします。
お仕事やご兄弟の送迎などで、日中の受診が難しい保護者の皆さまにも安心してご利用いただけるよう、当院は柔軟な診療時間とアクセス環境を整えています。
- 平日(月〜金)は、夜20時まで診療
- 土曜日も、13時まで診療
- クリニック前に、無料の専用駐車場を6台完備
インフルエンザの流行シーズンは、あっという間にやってきます。ぜひ、お早めにご相談ください。
参考文献
- Boddington NL, et al. Effectiveness of Influenza Vaccination in Preventing Hospitalization Due to Influenza in Children: A Systematic Review and Meta-analysis. Clin Infect Dis 2021; 73:1722.
- Flannery B, et al. Influenza Vaccine Effectiveness Against Pediatric Deaths: 2010-2014. Pediatrics 2017; 139.
- Committee on Infectious Diseases. Recommendations for Prevention and Control of Influenza in Children, 2025–2026. Pediatrics 2025.
長田こどもクリニック
杉並区荻窪の小児科・アレルギー科