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アトピー性皮膚炎の注射新薬「デュピクセント®」の効果と副作用。治療開始前に当院が伝えること|杉並区・荻窪

アトピー性皮膚炎の注射新薬「デュピクセント®」の効果と費用。治療開始前に当院が伝えること|杉並区・荻窪

【小児科医が解説】アトピー性皮膚炎の注射新薬「デュピクセント®」の効果と費用。ただし、その前に当院が伝えること|杉並区・荻窪

当院のブログが目指すこと:皮膚科治療への強いこだわり

私たち杉並区荻窪の長田こどもクリニックは、小児アトピー性皮膚炎の治療に長年力を入れてまいりました。インターネットで医療情報を検索する中で、多くの情報が個人の経験談であったり、医学的根拠が不明瞭であったりして、「どれが本当に信頼できる情報なのか分かりにくい」と感じたことはありませんか?

当院のブログは、そうした保護者の皆さまの不安に応えるため、明確なエビデンス(科学的根拠)に基づいた情報発信を心がけています。この記事も、世界中の医師が信頼を寄せる最新の医学論文レビューや、そこに引用されている原著論文を基に、他の医療者から見ても妥当だと思っていただけるレベルで、「デュピクセント®」について徹底解説します。

はじめに:終わらないかゆみに、新しい希望

「処方されたステロイド軟膏を塗っても、すぐにぶり返してしまう」「夜も眠れないほどのかゆみで、親子ともに疲れ果ててしまった」「もう、この子の肌がきれいになる日は来ないのではないか…」

アトピー性皮膚炎の治療が長期化し、ステロイド外用薬などの従来の治療法(標準治療)だけでは十分なコントロールが得られない中等症から重症のお子さまにとって、**「デュピクセント®(一般名:デュピルマブ)」**という注射の新薬は、まさに革命的な希望の光となっています。

当院は、アトピー性皮膚炎の治療に長年力を入れてきたクリニックとして、この新しい治療の選択肢を、必要とするお子さまに正確に届けたいと強く願っています。この記事では、デュピクセント®とは一体どんな薬なのか、その効果と安全性、そして、**なぜ当院がこの薬を「最後の切り札」として慎重に検討するのか**、その理由をエビデンスに基づいて徹底的に解説します。

デュピクセント®(デュピルマブ)とは? 治療の“革命”と呼ばれる新薬

デュピクセント®は、これまでのステロイド外用薬や免疫抑制剤(プロトピック®軟膏など)とは全く異なるアプローチでアトピー性皮膚炎の炎症を抑える**「生物学的製剤」**と呼ばれる注射薬です。

アトピー性皮膚炎の体質的な原因の一つに、「Th2(Tヘルパー2)」というタイプの免疫が過剰に働いてしまうことが挙げられます。このTh2免疫細胞が放出する**「IL-4」と「IL-13」**という2種類のサイトカイン(情報伝達物質)が、皮膚のバリア機能を壊し、強いかゆみと炎症を引き起こす“親玉”であることが分かっています。

デュピクセント®は、この**IL-4とIL-13の両方が働くために必要な「共通の鍵穴(受容体)」に先回りして結合し、蓋をしてしまう**モノクローナル抗体です。これにより、炎症とかゆみの根本的なシグナルを、元から断ち切ることができます。

従来の免疫抑制剤と比べて、全身の免疫機能を広く抑え込むわけではなく、アトピー性皮膚炎の炎症に特化した“ピンポイント”の作用であるため、**安全性が高く、長期的な使用に適している**のが最大の特徴です[1][2]

驚くべき効果:論文データで見る「どのくらい効くのか」

デュピクセント®の効果は、世界中の大規模な臨床試験で証明されています。特に注目すべきは、その「かゆみ」と「皮疹」に対する劇的な改善効果です。

小児(6ヶ月〜6歳)でのデータ

生後6ヶ月から6歳未満の重症アトピー性皮膚炎のお子さま162名を対象とした臨床試験では、デュピクセント®と低ランクのステロイド外用薬を併用しました。16週間後、皮膚症状が「消失またはほぼ消失(IGAスコア0/1)」したお子さまの割合は、**プラセボ(偽薬)群の4%に対し、デュピクセント®群では28%**と、7倍もの高い効果が示されました。また、皮膚の感染症の発生頻度がプラセボ群の約半分に減少したことも報告されています[3]

小児(6歳〜11歳)でのデータ

6歳から11歳の重症のお子さま367名を対象とした試験でも、デュピクセント®と中ランクのステロイド外用薬を併用しました。16週間後、皮膚症状が「75%以上改善(EASI-75)」したお子さまの割合は、**プラセボ群の27%に対し、デュピクセント®群では67〜70%**にも達しました[4]

思春期(12歳〜18歳)でのデータ

12歳から18歳の251名を対象とした試験では、16週間後、皮膚症状が「75%以上改善(EASI-75)」したお子さまの割合は、**プラセボ群の8%に対し、デュピクセント®群では38〜42%**でした[5]

これらのデータは、デュピクセント®が、乳幼児から思春期まで、既存の治療ではコントロールできなかった中等症〜重症のアトピー性皮膚炎に対して、極めて高い改善効果を持つことを科学的に示しています。

デュピクセント®治療の実際:投与方法、費用、主な副反応

投与方法とスケジュール

デュピクセント®は、**皮下注射**で投与されます。投与間隔は年齢や体重によって異なり、2週間または4週間に1回となります。日本国内では、**生後6ヶ月以上**のお子さまから、体重に応じた用法・用量で承認されています。多くの場合、治療はステロイド外用薬などと併用して行います。

【重要】治療にかかる費用と医療費助成

デュピクセント®は非常に優れた薬ですが、**高額な薬剤費**が大きな課題です。薬価そのものは非常に高額ですが、日本には様々な医療費助成制度があります。

  • 子どもの医療費助成制度:杉並区にお住まいの場合、「マル子医療証」など、お子さまの医療費助成制度が適用されます。これにより、窓口での自己負担は(所得制限などによりますが)大幅に軽減、あるいはゼロになる場合がほとんどです。
  • 高額療養費制度:成人の場合や、医療証の対象外であっても、1ヶ月の医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合、その超過分が払い戻される「高額療養費制度」が適用されます。

当院では、こうした公的制度の利用についても、詳しくご説明し、ご家庭の経済的負担についても一緒に考えます。

主な副反応(副作用)

デュピクセント®は、従来の免疫抑制剤に比べて安全性が高いとされていますが、主な副反応として以下のものが報告されています。

  • 注射部位反応:注射した場所の赤み、腫れ、かゆみなど。
  • 結膜炎(Conjunctivitis):最も特徴的な副反応です。臨床試験では、患者さんの約11%〜26%に、目の充血やかゆみ、乾燥感などの結膜炎症状が報告されています[6]。これは、アトピー性皮膚炎の患者さんがもともと持っている目のバリア機能の弱さが、薬の作用によって顕在化するためと考えられています。多くは点眼薬などで管理可能です。
  • 顔面の赤み:治療中に、顔(特に首から上)に赤みが出ることがあります[7]

【最重要】当院がデュピクセント®の前に、まず“徹底”して行うこと

デュピクセント®は、まさに「夢の薬」のように思えるかもしれません。しかし、当院では、アトピー性皮膚炎のお子さまに、**すぐにこの注射薬をお勧めすることはありません。**

なぜなら、デュピクセント®の保険適用は、あくまで**「ステロイド外用薬などの既存の治療法で十分な効果が得られない、中等症から重症のアトピー性皮膚炎」**に限られているからです。

「コントロール不良」の、本当の理由

「他院でステロイド軟膏をもらって塗っているのに、全然良くならない」—。そう言って当院を受診されるお子さまは少なくありません。しかし、私たちが詳しくお話を伺い、肌の状態を診察すると、その多くが**「薬が効かない」のではなく、「治療が正しく行われていない」**ケースであることがほとんどです。

  • ステロイドへの漠然とした不安から、塗る量が圧倒的に足りていない。
  • 「悪い時だけ塗る」リアクティブ療法を繰り返し、炎症がくすぶり続けている。
  • 保湿が不十分で、皮膚のバリア機能が壊れたまになっている。

アトピー治療専門クリニックとしての誇りと責任

当院は、小児アトピー性皮膚炎の治療に長年力を入れてきました。私たちは、**正しい強さの薬を、正しい量、正しい期間使用する「標準治療」と、それを維持する「プロアクティブ療法」**を徹底的に行うだけで、ほとんどのお子さまの肌は劇的に改善することを知っています。

高額なデュピクセント®治療を開始する前に、まずは基本であるステロイド治療を完璧に行う。それが、エビデンスに基づいた医療を提供するクリニックとしての、私たちの誇りであり、責任です。

他院で「コントロール不良」と言われたお子さまでも、当院の治療プランでステロイドと保湿剤の使い方を根本から見直すだけで、注射薬に頼らずに、かゆみのないツルツルの肌を取り戻せるケースは非常に多いのです。

デュピクセント® Q&Aコーナー

Q1. デュピクセント®を始めたら、ステロイドは止められますか?

A1. 併用が基本です。デュピクセント®は体質を中から変える薬、ステロイドは外から炎症を抑える薬です。治療開始後も、皮膚の状態に合わせてステロイド外用薬を併用することで、より早く、より確実な効果が得られます[1]。もちろん、症状が良くなれば、ステロイドの使用量は劇的に減っていきます。

Q2. いつまで続ける必要がありますか?

A2. アトピー性皮膚炎は慢性疾患であるため、デュピクセント®も長期的な使用が基本となります。しかし、症状が完全に落ち着いた状態(寛解)が長く続けば、注射の間隔を3週間、4週間と延ばしたり、一度中止してみることも可能です。研究では、安定した患者さんの8割以上が、注射の間隔を延ばしても良好な状態を維持できたと報告されています[8]。再燃した場合は、すぐに治療を再開できます。

Q3. 喘息やアレルギー性鼻炎にも効きますか?

A3. はい、デュピクセント®は、喘息やアレルギー性鼻炎(鼻茸を伴うもの)に対しても保険適用が承認されています。これらの病気は、アトピー性皮膚炎と同じ「Th2免疫」が原因であることが多いため、デュピクセント®でその根本を抑えることにより、皮膚だけでなく、喘息や鼻炎の症状も一緒に改善する効果が期待できます[9]

長田こどもクリニックのデュピクセント®導入方針:専門家としての責任

当院でも、デュピクセント®(デュピルマブ)による治療を開始することができます。

しかし、私たちは、アトピー性皮膚炎の専門家として、この薬を「魔法の薬」として安易に処方することはいたしません。

まずは、当院の治療方針である**「プロアクティブ療法」**を、ご家族に深くご理解いただくことから始めます。そのために、当院では初診時に**15分〜20分**という、通常の予約枠の5〜7倍の時間を確保し、医師と看護師が、ステロイドと保湿剤の正しい使い方、スキンケアの方法を徹底的にお伝えします。

その上で、**当院の治療プランを数ヶ月間、真剣に取り組んでいただいたにも関わらず、どうしてもかゆみと炎症がコントロールできない重症のお子さま**に限り、次のステップとして、デュピクセント®の導入を慎重に検討します。

「他院で治らないと言われた」と諦める前に、まずは一度、当院の「エビデンスに基づいた標準治療」を試してみませんか?

お忙しい保護者の皆さまへ:当院の診療体制

アトピー性皮膚炎の治療は、定期的な通院による医師のチェックが欠かせません。当院は、お仕事などで日中の受診が難しい保護者の皆さまにも安心して通院を続けていただけるよう、柔軟な診療体制を整えています。

  • 平日(月〜金)は、夜20時まで診療
  • 土曜日も、13時まで診療
  • クリニック前に、無料の専用駐車場を6台完備

杉並区荻窪で、お子さまの肌の悩みに、根本から向き合います。どうぞお気軽にご相談ください。

参考文献

  1. Blauvelt A, et al. Long-term management of moderate-to-severe atopic dermatitis with dupilumab and concomitant topical corticosteroids (LIBERTY AD CHRONOS): a 1-year, randomised, double-blinded, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet. 2017;389(10086):2287-2303.
  2. Deleuran M, et al. Dupilumab shows long-term safety and efficacy in patients with moderate-to-severe atopic dermatitis enrolled in a phase 3 open-label extension study. J Am Acad Dermatol. 2020;82(2):377-388.
  3. Paller AS, et al. Dupilumab in children aged 6 months to younger than 6 years with uncontrolled moderate-to-severe atopic dermatitis: a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet. 2022;400(10356):908-919.
  4. Paller AS, et al. Efficacy and safety of dupilumab with concomitant topical corticosteroids in children 6 to 11 years old with severe atopic dermatitis: A randomized, double-blind, placebo-controlled phase 3 trial. J Am Acad Dermatol. 2020;83(5):1282-1293.
  5. Simpson EL, et al. Efficacy and safety of dupilumab in adolescents with uncontrolled moderate to severe atopic dermatitis: a phase 3 randomized clinical trial. JAMA Dermatol. 2020;156(1):44-56.
  6. Akinlade B, et al. Conjunctivitis in dupilumab clinical trials. Br J Dermatol. 2019;181(3):459-473.
  7. Muzumdar S, et al. Dupilumab-induced facial redness: A systematic review and case series. J Am Acad Dermatol. 2019;81(4):1008-1010.
  8. Spekhorst LS, et al. Real-world practice of dupilumab dose tapering in patients with atopic dermatitis: 1-year follow-up from the Dutch BioDay registry. Br J Dermatol. 2021;185(3):681-683.
  9. Muntyanu A, et al. Dupilumab for the treatment of atopic dermatitis: a review of current evidence. Expert Rev Clin Immunol. 2019;15(9):943-955.

長田こどもクリニック
杉並区荻窪の小児科・アレルギー科

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