【小児科医が解説】アトピー性皮膚炎の「原因」は?遺伝?食べ物?最新エビデンスで解き明かす本当の理由|杉並区・荻窪
私たち杉並区荻窪の長田こどもクリニックは、小児科診療において、1個人の意見ではなく、常に科学的根拠(エビデンス)に基づいた診断と治療を最優先にしています。
インターネットで医療情報を検索する中で、多くの情報が個人の経験談であったり、根拠の不確かな情報も少なくありません。「アトピー性皮膚炎の原因」に関するこの記事も、世界中の医師が信頼を寄せる最新の医学論文レビューや国内外の診療ガイドラインを基に、他の医療者から見ても妥当だと思っていただけるレベルで、日本一詳しく、そして正確に解説することを目指します。
「アトピーは遺伝するの?」「妊娠中の食べ物が悪かったのかしら?」
お子さまがアトピー性皮膚炎と診断されたとき、多くの保護者の方が「原因」を自分の中に探し、悩んでしまわれます。
しかし、アトピー性皮膚炎は単一の原因で起こるものではなく、皮膚のバリア機能、免疫システム、遺伝、そして環境要因が複雑に絡み合って発症する病気です。
この記事では、最新の医学的エビデンスに基づき、アトピー性皮膚炎の「本当の原因」を分かりやすく解き明かします。原因を正しく知ることは、なぜ保湿が必要なのか、なぜステロイドが必要なのかという「治療の理由」を理解する第一歩です。
目次
アトピーの2大原因:「皮膚バリア」と「免疫の暴走」
アトピー性皮膚炎の原因は、長年の研究により、大きく分けて2つのメカニズムが関わっていることが分かっています[1]。
- 皮膚バリア機能の異常(Outside-in): 皮膚が乾燥し、外部からの刺激(ダニ、ほこり、細菌など)が侵入しやすくなっている状態。
- 免疫システムの異常(Inside-out): 侵入してきた異物に対して、体の免疫が過剰に反応し、強い炎症やかゆみを引き起こしてしまう体質。
これらが互いに影響し合い、悪循環(かゆみ→掻く→バリア破壊→炎症悪化)を引き起こすのがアトピー性皮膚炎の本質です。
原因1:皮膚バリア機能の異常(フィラグリンの不足)
健康な皮膚の角層(一番外側の膜)は、レンガとセメントのように細胞がきれいに並び、水分を保ち、外敵の侵入を防いでいます。このバリア機能の要となるのが、「フィラグリン」というタンパク質です。
最新の遺伝子研究により、アトピー性皮膚炎の患者さんの多く(特に日本人患者の約27%、ヨーロッパ系の約50%)で、このフィラグリンを作る遺伝子(FLG遺伝子)に変異があり、フィラグリンがうまく作れないことが分かっています[2]。
- 乾燥肌になる: フィラグリンは分解されて「天然保湿因子(NMF)」になります。これが足りないため、皮膚の水分が蒸発しやすくなります。
- pHが上がる: 皮膚の表面は通常「弱酸性」で守られていますが、アルカリ性に傾き、黄色ブドウ球菌などの悪玉菌が増えやすくなります。
- 隙間ができる: 角層の構造が脆くなり、ダニやアレルゲンが容易に皮膚の奥まで侵入してしまいます。
だからこそ、アトピー治療においては、不足しているバリア機能を補うための「保湿剤」が欠かせないのです。
原因2:免疫システムの異常(Th2免疫の暴走)
バリア機能が壊れた皮膚からアレルゲンが侵入すると、私たちの体はそれを排除しようとします。この時、アトピー素因を持つ方の体では、「Th2細胞(Tヘルパー2細胞)」という免疫細胞が過剰に活性化してしまいます[3]。
このTh2細胞は、「IL-4(インターロイキン4)」や「IL-13」といった指令物質(サイトカイン)を大量に放出し、以下のような反応を引き起こします。
- IgE抗体の産生: アレルギー反応の元となる抗体をたくさん作らせます。
- 炎症の悪化: 皮膚に炎症細胞を呼び寄せ、赤みや腫れを起こします。
- バリア機能の低下: 驚くべきことに、これらの炎症物質はフィラグリンの産生をさらに抑制し、バリア機能をさらに弱めてしまいます。
- かゆみ: 「IL-31」などの物質がかゆみ神経を直接刺激します。
この「免疫の暴走」を抑えるために、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏、そして重症例ではデュピクセント(IL-4/13をブロックする注射薬)などの「抗炎症治療」が必要になるのです。
「遺伝」はどのくらい関係する?
「私のせいで…」とご自分を責める保護者の方がいらっしゃいますが、アトピー性皮膚炎は単純な遺伝病ではありません。
確かに、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患(アトピー素因)の家族歴は、最も強力なリスク因子です。両親ともにアレルギー疾患がある場合、お子さまの発症リスクは3〜5倍になると言われています[4]。
しかし、遺伝子(フィラグリン異常など)だけで発症が決まるわけではありません。一卵性双生児(遺伝子が全く同じ)の研究でも、片方がアトピーでも、もう片方が発症する確率は約80%であり、残り20%は発症しません[5]。つまり、環境要因やスキンケアなどの後天的な要素も大きく関わっているということです。
誤解されがちな原因:「食べ物」と「デトックス」
インターネット上には、「アトピーの原因は腸にある」「体に毒素が溜まっている」といった情報があふれていますが、これらは科学的根拠に乏しいものです。
- × 食物アレルギーが原因: かつては食べ物が原因と考えられていましたが、現在は「肌荒れからアレルゲンが侵入することで食物アレルギーになる(経皮感作)」ことが分かっています[6]。つまり、原因と結果が逆です。乳児アトピーで原因が稀に食事が原因となることが指摘されていますが母乳中のお母様の食事制限は子供のアトピーを改善しないというデータがあります。海外各国のガイドラインでも食事制限は例外を除き推奨されていません。
- × ステロイドの蓄積: ステロイドは体内に蓄積しません。むしろ、ステロイドを避けて炎症を長引かせることの方が、皮膚を厚くし、黒ずみ(色素沈着)の原因となります。
原因が分かれば、治療が見える(プロアクティブ療法へ)
アトピー性皮膚炎の原因が、「バリア機能の弱さ」と「免疫の暴走」にあると分かれば、治療の目的も明確になります。
- バリアを補う: 毎日たっぷりの保湿剤で、フィラグリンの代わりをする。
- 免疫の暴走を止める: ステロイド外用薬などで、Th2細胞による炎症の連鎖を断ち切る。
- 良い状態を維持する: 見た目がきれいになっても、遺伝的な体質(バリアの弱さや免疫の癖)は残っています。だからこそ、症状がなくても薬を塗り続ける「プロアクティブ療法」で、再発を予防する必要があるのです。
Q&A:アトピーの原因について
A. アトピー性皮膚炎は「体質」に基づいた病気であるため、「完全に治癒して二度と出ない」という状態にするのは難しいこともあります。しかし、適切な治療を続ければ、多くの患者さんは大人になるまでに症状が出なくなったり、薬を使わなくても良い状態(寛解)を長く維持できるようになります。
A. 一部の研究で、硬度の高い水(硬水)の使用がアトピーのリスクを高める可能性が示唆されていますが、軟水器の使用が症状を改善するという明確な証拠はありません[7]。塩素の影響についても科学的な定説には至っていません。過度に気にするよりも、毎日のスキンケアを徹底することの方がはるかに重要です。
A. ストレスを感じると、神経から様々な物質(神経ペプチドなど)が放出され、それが免疫細胞を刺激して炎症やかゆみを悪化させることが分かっています。原因そのものではありませんが、強力な悪化因子の一つです。
原因を知ることは、治療への納得感を高め、継続する力になります。
「うちの子の肌はどうしてこうなの?」「この治療で合っているの?」と不安な方は、ぜひ一度当院にご相談ください。専門医が丁寧にご説明いたします。
当院では、初診時に十分な時間をとり、病気の原因から薬の塗り方まで丁寧にご指導します。
平日夜20時まで、土曜も13時まで診療しています。
〒167-0052 東京都杉並区南荻窪1-31-14
TEL: 03-3334-2030
参考文献
- Weidinger S, Novak N. Atopic dermatitis. Lancet. 2016;387(10023):1109-1122.
- Irvine AD, McLean WH, Leung DY. Filaggrin mutations associated with skin and allergic diseases. N Engl J Med. 2011;365(14):1315-1327.
- Palmer CN, et al. Filaggrin null mutations are associated with increased asthma exacerbations in children and young adults. J Allergy Clin Immunol. 2011.
- Eichenfield LF, et al. Guidelines of care for the management of atopic dermatitis: section 1. Diagnosis and assessment of atopic dermatitis. J Am Acad Dermatol. 2014;70(2):338-351.
- Larsen FS, et al. Atopic dermatitis. A genetic-epidemiologic study in a population-based twin sample. J Am Acad Dermatol. 1986;15(3):487-494.
- Lack G. Update on risk factors for food allergy. J Allergy Clin Immunol. 2012;129(5):1187-1197.
- Jabbar-Lopez ZK, et al. The effect of water hardness on atopic eczema, skin barrier function: A systematic review, meta-analysis. Clin Exp Allergy. 2021;51(3):430-451.
長田こどもクリニック
杉並区荻窪の小児科・アレルギー科

