顔のアトピー性皮膚炎、ステロイドは大丈夫?日本と海外の最新治療ガイドラインを比較|杉並区・荻窪
私たち杉並区荻窪の長田こどもクリニックは、小児アトピー性皮膚炎の治療に長年力を入れてまいりました。インターネットで医療情報を検索する中で、多くの情報が個人の経験談であったり、医学的根拠が不明瞭であったりして、「どれが本当に信頼できる情報なのか分かりにくい」と感じたことはありませんか?
当院のブログは、そうした保護者の皆さまの不安に応えるため、明確なエビデンス(科学的根拠)に基づいた情報発信を心がけています。この記事も、**「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024(日本皮膚科学会)」**[1]や**「米国皮膚科学会(AAD)ガイドライン 2024」**[2]など、最新の信頼できる情報を基に、他の医療者から見ても妥当だと思っていただけるレベルで、「顔のアトピー」について徹底解説します。
目次
はじめに:「顔」のアトピー、保護者の皆さまの最大の不安
お子さまの顔、特に目や口のまわりに赤い湿疹やかゆみが出ると、保護者の皆さまは他の体の部位とは比べ物にならないほどの不安を感じることでしょう。「こんな目立つところに跡が残ったらどうしよう…」「顔にステロイドを塗っても本当に大丈夫?」— そのお気持ちは、よく分かります。
多くの保護者の皆さまが、医師から処方された薬(例えばロコイド軟膏®など)を前に、「本当にこの強さでいいのか?」「いつまで塗ればいいのか?」と悩まれます。特に日本では「顔には弱いステロイドを」という考え方が定石とされていますが、その結果、**中途半端な治療で炎症がくすぶり、かえって症状を長引かせている**ケースも少なくありません。
この記事では、なぜ顔の治療は特別なのか、そして、日本の常識と海外の最新ガイドラインではどのような違いがあるのかを徹底的に比較・解説し、貴院が目指す「エビデンスに基づいた最善の治療法」をご提案します。
なぜ顔はデリケート?ステロイド吸収率「13倍」の真実
まず、なぜ顔へのステロイド使用は慎重になるべきなのでしょうか。それは、皮膚の薄さと吸収率に明確な違いがあるからです。
皮膚からの薬の吸収率(経皮吸収率)は、体の部位によって大きく異なります。前腕の内側を「1」とした場合、体の各部位の吸収率は以下のようになると言われています。
- 足のうら:0.14倍
- 手のひら:0.83倍
- 背中:1.7倍
- 腕・脚:1.0倍(基準)
- 頭皮:3.5倍
- おでこ:6.0倍
- ほほ・あご:13.0倍
- 陰嚢:42.0倍
(※出典: Feldmann RJ, Maibach HI. J Invest Dermatol. 1967[3])
このデータが示す通り、**ほほやあごの吸収率は、腕の13倍にも達します。** 皮膚が薄く、血管が豊富な顔は、それだけ薬の成分を吸収しやすく、同時に副作用(皮膚が薄くなる、毛細血管が浮き出るなど)も出やすいデリケートな部位なのです。
【徹底比較】顔のアトピー治療:日本 vs 海外ガイドライン
この「顔はデリケート」という事実を踏まえ、日本と海外の治療ガイドラインでは、戦略にどのような違いがあるのでしょうか。
日本のガイドラインの考え方
日本の**「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024年版(2021年版から改訂)」**では、副作用のリスクを避けるため、顔や首には原則として**「Medium(ふつう)」**または**「Weak(弱い)」**ランクのステロイド外用薬を使用することが推奨されています[1]。ロコイド®やキンダベート®がこれにあたります。これは、安全性を最優先した、非常に慎重なアプローチです。
海外(米国・欧州)のガイドラインの考え方
一方、**「米国皮膚科学会(AAD)ガイドライン 2024年版」**[2]や欧州のガイドラインでも、顔への長期的なステロイド使用には慎重であり、低ランクのものが推奨されています。
しかし、日本と大きく異なるのは、**治療の「メリハリ」と「その後の戦略」**です。
- ① 炎症の強さに合わせた初期治療:海外では、たとえ顔であっても、炎症が強ければ**短期間(例:1〜2週間)に限り、ワンランク上の「Medium(ふつう)」ランク**のステロイドを使用してでも、まず炎症を迅速かつ完全に鎮圧(鎮火)することを優先する場合があります。それでも改善がない場合どうするかにはコツがあります。ロコイドを塗っているけど、ずっと改善がない方は是非当院にご相談下さい。
- ② 維持療法への迅速な移行:火事を消した後は、漫然とステロイドを使い続けるのではなく、**速やかに「弱いステロイド」や「非ステロイド性」の抗炎症薬(モイゼルトやコレクチム、タクロリムスなど)に切り替え、それを予防的に使用する(プロアクティブ療法)**ことを第一選択として強く推奨しています。
【結論】日本と海外の違いとは?
大きな違いは、「弱い薬を恐る恐る使い、炎症がくすぶり続ける」ことを許容するか、それとも「適切な強さの薬で短期間に鎮火させ、安全な薬で再発を予防する」か、という**治療哲学**にあります。
海外のガイドラインは、「顔にステロイドを使い続けるリスク」を重く見ているからこそ、**ステロイド以外の選択肢を最大限に活用**し、ステロイドの使用を局所的かつ短期的に留める戦略を重視しているのです。
「ロコイド®(Medium)で効かない時」の次の一手は?
では、「顔にはMedium」という日本の標準治療に従いロコイド軟膏®を塗っても、なかなか赤みやかゆみが治まらない場合、どうすればよいのでしょうか。ガイドラインには、その先の戦略も示されています。
日本のガイドラインでも、Mediumランクのステロイドで効果が不十分な場合、あるいは副作用が懸念される場合には、次の選択肢として**「タクロリムス軟膏(プロトピック®軟膏)」**の使用が推奨されています[1]。当院では使用感などからモイゼルト、コレクチムを選択することもあります。
海外で主流の「非ステロイド薬」:モイゼルト、コレクチム、タクロリムス(プロトピック®)
これはステロイドとは全く異なる免疫抑制薬で、アトピー性皮膚炎の過剰な免疫反応を局所的に抑えます。最大の特徴は、**ステロイドで懸念されるような皮膚が薄くなるなどの副作用が、長期間使用してもない**ことです。
そのため、皮膚が薄くデリケートな顔や首、まぶたの治療、そして症状が改善した後の「プロアクティブ療法(再発予防のための塗布)」に最も適した薬剤として、世界的に標準薬となっています。ただし、使い始めにヒリヒリとした刺激感が出やすいという欠点もあります。
【当院の結論】「弱い薬でダラダラ」が一番危険な理由
「顔だから、怖いから、弱い薬(ロコイド®など)だけにしておこう」—。この一見安全に見える選択が、実は最も危険な「負のスパイラル」の入り口です。
弱い薬では、皮膚の奥にくすぶる炎症の「火種」を完全に消しきれません。薬をやめればすぐに再燃し、かゆみで掻きむしり、皮膚のバリアはさらに破壊されます。この状態が長く続くと、以下のような深刻な問題を引き起こします。
- 皮膚のゴワゴワ化(苔癬化):慢性的な炎症で皮膚が厚く、硬くなってしまいます。
- 色素沈着:炎症を繰り返した結果、肌が黒ずんでしまいます。
- 食物アレルギーの発症:壊れたバリアから食物抗原が侵入し、アレルギーを獲得してしまうリスク(経皮感作)が高まります[4]。
当院では、こうした最悪の事態を避けるため、**海外の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」[2]に基づいた「プロアクティブ療法」**を治療の根幹に据えています。つまり、中途半端な治療で炎症を引き延ばすのではなく、まず適切な強さの薬で速やかに炎症をゼロにし、その後はタクロリムス軟膏なども活用しながら、徹底的に再発を予防する。これこそが、お子さまの顔の肌を長期的に守る、最もエビデンスに基づいた治療法です。
顔のアトピー Q&Aコーナー
A1. 非常にまれですが、強いステロイドを眼の近くに長期間(数ヶ月〜数年)塗り続けることで、眼圧が上昇し、緑内障のリスクを高める可能性が報告されています。だからこそ、当院では顔の治療、特に目の周りはモイゼルト、コレクチム、タクロリムス軟膏(プロトピック®)など、そのリスクがない薬への切り替えを積極的に進めています。
A2. いいえ、それはステロイドの副作用である可能性は極めて低いです。その黒ずみは、**「炎症後色素沈着」**といって、ニキビあとや虫刺されあとがシミになるのと同じ原理です。つまり、**ステロイドを使ったから黒くなったのではなく、炎症を抑えきれていない(治療が不十分である)から黒くなっている**のです。治療を強化し、炎症を完全に抑えることが、色素沈着をこれ以上作らないための最善策です。
長田こどもクリニックの顔アトピー治療:専門家としての責任
当院は、小児アトピー性皮膚炎の治療に長年力を入れてきました。私たちは、アトピー性皮膚炎を「慢性疾患」として捉え、「症状のない快適な生活を、いかに長く維持するか」という**「管理(コントロール)」**を重視しています。
特に顔の治療は、専門的な知識と、患者さん・ご家族との密なコミュニケーションが不可欠です。私たちは、単に「弱い薬を出しておく」という画一的な治療は行いません。お子さまの炎症の程度を正確に評価し、国内外のガイドラインに基づいた最適な治療プラン(ステロイドの強さ、プロアクティブ療法への移行タイミング)を、ご家族が納得できるまで丁寧にご説明します。
アトピー性皮膚炎の治療は、定期的な通院による医師のチェックが欠かせません。当院は、お仕事などで日中の受診が難しい保護者の皆さまにも安心して通院を続けていただけるよう、柔軟な診療体制を整えています。
- 平日(月〜金)は、夜20時まで診療
- 土曜日も、13時まで診療
- クリニック前に、無料の専用駐車場を6台完備
杉並区荻窪で、お子さまの顔の湿疹に、根本から向き合います。どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
- 日本皮膚科学会ガイドライン. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021. (※2024年版が公表され次第、最新版に準拠します)
- Reynolds, RV, et al. Guidelines of care for the management of acne vulgaris. J Am Acad Dermatol. 2024;90(5):1006.e1-1006.e30.
- Feldmann RJ, Maibach HI. Regional variation in percutaneous penetration of 14C cortisol in man. J Invest Dermatol. 1967;48(2):181-3.
- Davis DM, et al. Atopic dermatitis clinical guidelines: Practice management and therapeutic update. J Am Acad Dermatol. 2024.
- Lack G. The dual-allergen exposure hypothesis. J Allergy Clin Immunol. 2008;121(6):1331-6.
長田こどもクリニック
杉並区荻窪の小児科・アレルギー科

