子供の「乾燥性皮膚炎」はただの乾燥肌じゃない?見分け方と正しい治療法【小児科医解説】
こんにちは。杉並区南荻窪の長田こどもクリニック、副院長です。
冬になるとお子さんの肌がカサカサになり、痒がって夜も眠れない…そんなお悩みで受診される方が増えます。
日本では一般的に「乾燥肌」や「皮脂欠乏性湿疹」と呼ばれるこの状態ですが、実は海外と日本とでは、その治療や捉え方に少し違いがあります。
私たち杉並区荻窪の長田こどもクリニックは、小児科診療において、1個人の意見ではなく、常に科学的根拠(エビデンス)に基づいた診断と治療を最優先にしています。
インターネットで医療情報を検索する中で、多くの情報が個人の経験談であったり、根拠の不確かな情報も少なくありません。「乾燥性皮膚炎」に関するこの記事も、世界中の医師が信頼を寄せる最新の医学論文レビューや国内外の診療ガイドラインを基に、他の医療者から見ても妥当だと思っていただけるレベルで、日本一詳しく、そして正確に解説することを目指します。
今回は、世界的な医学定義や最新のエビデンス(科学的根拠)に基づき、お子さんの乾燥性皮膚炎について解説します。
目次
1. 「乾燥肌」と「乾燥性皮膚炎」の決定的な違い
お子さんの肌が乾燥して粉を吹き、赤くなって痒みが出ている状態。日本ではこれを「皮脂欠乏性湿疹(ひしけつぼうせいしっしん)」や「乾燥性皮膚炎」と診断します。
海外での定義:Asteatotic Eczema / Xerosis
海外の医学論文やガイドラインでは、以下の用語が使われます。
- Xerosis Cutis(ゼローシス・キューティス):いわゆる「乾皮症」。肌のバリア機能が低下し、水分が失われた状態です。
- Asteatotic Eczema(アステアトティック・エクゼマ):乾燥が進行し、亀裂や炎症(湿疹)を伴った状態です。日本の「皮脂欠乏性湿疹」に相当します。
日本と海外の決定的な違い=「保湿剤」
海外(特に欧米)では、乾燥肌は「病気」というよりも「肌の状態(Condition)」と捉えられることが多く、保湿剤はドラッグストアで自分で購入する(OTC医薬品)のが一般的です。
一方、日本では「皮脂欠乏症」という診断のもと、ヘパリン類似物質などの高品質な医療用保湿剤が保険診療で処方されます。これは世界的に見ても非常に恵まれた医療環境と言えます。
2. なぜ子供はなりやすい?肌バリアのメカニズム
「子供の肌はプルプルで水分が多い」と思っていませんか?実は、生理学的には正反対です。
(1) 皮脂量が少ない
皮脂(肌の脂)の分泌量は、生後数ヶ月を過ぎると激減し、思春期になるまで大人の数分の一しかありません。つまり、子供の肌は天然の保護膜が極端に薄い状態です。
(2) 水分が蒸発しやすい(TEWLが高い)
皮膚のバリア機能の指標として、肌からどれくらい水分が逃げているかを測る「経表皮水分蒸散量(TEWL)」という数値があります。
研究によると、5歳頃までの幼児は、健康な成人に比べてこのTEWLが高く、肌の水分を保持する力が未熟であることがわかっています[1]。
3. アトピー性皮膚炎との見分け方は?
「乾燥性皮膚炎」と「アトピー性皮膚炎」は、見た目が非常によく似ており、合併していることも多いため、ご家庭での判断は困難です。しかし、一般的な特徴として以下の違いがあります。
| 特徴 | 乾燥性皮膚炎 | アトピー性皮膚炎 |
|---|---|---|
| 発症時期 | 冬に悪化し、夏は治まることが多い | 季節に関わらず、良くなったり悪くなったりを繰り返す |
| 場所 | すね、太もも、背中、腰回りなど | 関節の内側、顔、首、耳の付け根など左右対称に出やすい |
ただし、乾燥性皮膚炎を放置すると、そこからアレルゲンが侵入し、アトピー性皮膚炎の発症リスクを高める可能性があります[2]。自己判断せず、早期に医師の診断を受けることが重要です。
4. ガイドラインに基づく「治療」と「スキンケア」
「皮脂欠乏症診療の手引き 2021」に基づき、家庭でのケアと病院での治療について解説します。
① 炎症がある場合の治療(ステロイド外用薬)
乾燥が進んで、赤みや痒み(湿疹)が出ている場合、保湿剤だけでは治りません。
手引きでは、「保湿剤による治療にもかかわらず増悪して湿疹化した場合には、ステロイド外用薬などの抗炎症薬を用いた治療を併用する」とされています[4]。
まずはステロイドで「火事(炎症)」を消し、その後保湿剤で「予防」するという順序が鉄則です。
② 保湿剤の正しい選び方と塗り方
炎症がない、または治まった後の「カサカサ肌」には、医療用保湿剤(ヘパリン類似物質、尿素など)が有効です。手引きによると、1日1回よりも「1日2回」塗る方が、高い保湿効果が得られることが報告されています[4]。
塗る量は「1FTU(フィンガーチップユニット)」が目安です。大人の人差し指の先から第一関節まで出した量(約0.5g)で、大人の手のひら2枚分の面積を塗ります。肌がテカテカと光り、ティッシュが張り付くくらいが適量です。
③ 洗い方・環境の整備(患者指導)
薬だけでなく、日々の生活習慣も見直しましょう[4]。
- ナイロンタオル禁止: ゴシゴシ洗いは角層を傷つけ、乾燥を悪化させます。石鹸をよく泡立てて、手で優しく洗いましょう。
- お湯の温度: 熱いお湯は皮脂を奪います。38〜39℃程度のぬるま湯が推奨されます。
- 保湿のタイミング: 入浴直後でなくても効果に大きな差はないとされていますが、習慣化のために「お風呂上がり」に塗ることをお勧めします。
- 衣類: ウールや化繊は刺激になりやすいため、肌着は木綿などの刺激の少ない素材を選びましょう。
- 湿度管理: 冬場は加湿器などを使い、室内の湿度を保ちましょう。
5. 病院を受診するべきタイミングは?
「ただの乾燥肌」と侮らず、以下のサインが見られたら早めに受診してください。
- 痒みがある場合:見た目がカサカサしているだけでなく、お子様が痒がっている場合は治療の対象です。手引きでも「明らかな鱗屑や掻破痕を認め、悪化が予測される場合には、瘙痒を伴わなくとも医療用保湿剤による治療介入を考慮する」とされています[4]。
- 赤みや湿疹がある場合:すでに炎症が起きています。保湿剤だけでなく、ステロイドなどの抗炎症薬が必要です。
- 市販の保湿剤で改善しない場合:1週間ほどケアしても良くならない場合は、より効果の高い医療用保湿剤や別の治療が必要かもしれません。
- 夜眠れないほど痒がる場合:生活の質(QOL)が低下しています。早急に痒みを止める治療が必要です。
6. よくある質問(Q&A)
A. 乾燥などの症状がない場合、予防目的での一律な塗布は推奨されていません。
かつては新生児期からの保湿がアトピー予防になると期待されていましたが、最新の大規模な研究(BEEP試験など)では、発症予防効果は認められませんでした。手引きでも「アトピー性皮膚炎の発症予防目的での皮脂欠乏症のない児への保湿剤塗布はすすめられない」とされています[3][4]。
ただし、すでに乾燥している肌(皮脂欠乏症)に対しては、バリア機能を補うために保湿剤による治療が重要です。
A. 大丈夫です。むしろ継続が大切です。
皮脂欠乏症は、治療を中断すると再発しやすい病態です。手引きでも、症状が良くなった後も保湿剤を継続することで、良い状態を維持できるとされています[4]。特に乾燥する冬の間は、毎日続けて肌を守ってあげましょう。
当院では、単にお薬を出すだけでなく、お子さんの肌質に合わせたスキンケア指導や、アレルギーの相談も行っています。
お肌のトラブルは、早めの対応が肝心です。杉並区、荻窪周辺でお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
平日毎日夜20時まで、土曜も13時まで診療しています。
無料駐車場は6台分ご用意しています。
〒167-0052 東京都杉並区南荻窪1-31-14
TEL: 03-3334-2030
引用文献
- Walters RM, et al. Developmental changes in skin barrier and structure during the first 5 years of life. Skin Pharmacol Physiol, 2016; 29: 111-118.
- Horimukai K, et al. Application of moisturizer to neonates prevents development of atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol, 2014; 134: 824-830.
- Chalmers JR, et al. Daily emollient during infancy for prevention of eczema: the BEEP randomised controlled trial. Lancet, 2020; 395: 962-972.
- 日本皮膚科学会ガイドライン. 皮脂欠乏症診療の手引き 2021.
- Kuzmina N, et al. Urea and sodium chloride in moisturisers for skin of the elderly–a comparative, double-blind, randomised study. Skin Pharmacol Appl Skin Physiol, 2002; 15: 166-174.
- Long CC, Finlay AY. The finger-tip unit--a new practical measure. Clin Exp Dermatol, 1991; 16: 444-447.
長田こどもクリニック
杉並区荻窪の小児科・アレルギー科

