【小児科医が徹底解説】子どもの急性胃腸炎の症状(嘔吐・下痢)、原因、食事、受診の目安まで|杉並区・荻窪 長田こどもクリニック
インターネットで医療情報を検索する中で、各施設の先生方の個人的な意見も多く、どこまでが客観的な事実なのか分かりにくい、と感じたことはありませんか?私たち杉並区荻窪の長田こどもクリニックは、そうした保護者の皆さまの不安に応えるため、明確なエビデンス(科学的根拠)に基づいたブログ作成を心がけています。この記事も、世界中の医師が信頼を寄せる最新の医学論文レビュー「UpToDate」の情報を基に、他の医療者から見ても妥当だと思っていただけるレベルで、「急性胃腸炎」について徹底解説します。
目次
はじめに:突然の嘔吐と下痢、どうすれば?
お子さまが突然、噴水のように吐き始め、続いて水のような下痢が始まった…。見ているだけでもつらいその姿に、「何か悪い病気なのでは?」「すぐに病院へ行くべき?」と、保護者の皆さまはパニックになってしまうかもしれません。
お子さまの急な嘔吐や下痢のほとんどは、ウイルス感染による**「急性胃腸炎」**です。多くは自然に治る病気ですが、特に小さなお子さまでは脱水症を起こしやすく、注意深い観察と適切なケアが非常に重要です。この記事では、急性胃腸炎の症状や原因、そして最も大切な「お家での対処法」と「急いで受診すべきタイミング」について、科学的根拠に基づいて徹底的に解説します。
急性胃腸炎とは?お腹の中で何が起きているの?
急性胃腸炎とは、その名の通り、胃や腸の粘膜に急性の炎症が起こる病気です。多くはウイルスや細菌の感染が原因で、**「1日に3回以上のゆるい便、または普段より2回以上多い便が、14日以内に治まるもの」**と定義されます[1]。
ウイルスが腸の細胞(腸管上皮細胞)に感染すると、細胞が破壊されてしまいます。これにより、腸は水分を吸収する能力が低下し、逆に腸の中に水分が漏れ出してしまうため、水のような下痢(水様便)が起こります。また、食べ物を消化する能力も落ちるため、消化不良を起こしやすくなります[2]。
主な原因ウイルス:ロタ、ノロ、アデノウイルスの特徴
子どもの急性胃腸炎の原因となるウイルスはたくさんありますが、特に代表的なのが以下の3つです。
- ノロウイルス:全年齢で感染しますが、特に学童期以降のお子さまや成人で多く見られます。感染力が非常に強く、集団発生の原因となりやすいのが特徴です。日本では主に冬に流行します。
- ロタウイルス:乳幼児の重症胃腸炎の主な原因でしたが、2020年からロタウイルスワクチンが定期接種化されたことで、劇的に減少しました[3]。しかし、今でも感染は見られ、冬から春にかけて流行します。
- アデノウイルス:4歳未満のお子さまに多く、季節を問わず一年中見られますが、特に夏に多い傾向があります。
アメリカで行われた大規模な調査では、急性胃腸炎で入院したお子さまから最も多く検出されたウイルスは、ノロウイルス(18.5%)、次いでロタウイルス(16.1%)、アデノウイルス(7.7%)でした[4]。
急性胃腸炎の典型的な症状と経過
原因となるウイルスによって多少の違いはありますが、多くのウイルス性胃腸炎は似たような症状と経過をたどります。
- 嘔吐:多くの場合、症状は突然の嘔吐から始まります。最初の半日〜1日は、水分を摂ってもすぐに吐いてしまうなど、嘔吐が症状の中心となります。通常、嘔吐は1〜2日で治まります。
- 下痢:嘔吐が少し落ち着いてきた頃から、水のような下痢が始まります。便の色は、黄色、白っぽい(米のとぎ汁様)、緑色など様々です。通常、下痢は5〜7日間続きます。
- 発熱:約半数のお子さまに発熱が見られます。高熱が出ることもありますが、2〜3日で解熱することがほとんどです。
- 腹痛:波のある腹痛(けいれん性の腹痛)を伴うことがあります。
【最重要】脱水症の見分け方と、危険なサイン
急性胃腸炎で最も注意すべき合併症が**「脱水症」**です。特に、まだ体の水分調整機能が未熟な乳幼児は、嘔吐と下痢によってあっという間に脱水状態に陥ってしまいます。ご家庭では、以下のサインを見逃さないことが何よりも大切です。
- 元気がない・ぐったりしている
- おしっこの回数・量が明らかに減った(半日以上おしっこが出ていない場合は要注意)
- 泣いても涙が出ない
- 口の中や舌が乾いている
- 目がくぼんでいる
- 皮膚の張りがなく、つまんだ跡がなかなか戻らない
- 呼吸が速い、脈が速い
これらのサインが一つでも見られたら、軽症とは言えません。速やかに医療機関を受診してください。
家庭でのケア完全ガイド:水分補給と食事の進め方
急性胃腸炎の治療の主役は、点滴や薬ではなく、ご家庭での**「経口補水療法(ORT)」**です。正しい方法を知っておくことが、お子さまを脱水から守る一番の力になります。
水分補給のゴールデンルール
- 何を飲ませる?:最も適しているのは、水分と電解質(ナトリウム、カリウム)がバランス良く配合された**経口補水液(OS-1など)**です。スポーツドリンクは糖分が多すぎて電解質が少ないため、下痢を悪化させることがあります。母乳やミルクは、薄めずにそのまま続けて大丈夫です。
- どうやって飲ませる?:嘔吐が激しい時は、焦って一度にたくさん飲ませてはいけません。スプーンやスポイトを使い、**5ml程度の少量**を、**5〜10分おき**に根気強く与え続けるのがコツです。
食事の再開と内容
嘔吐が落ち着き、水分を摂っても吐かなくなったら、食事を再開します。**早く食事を再開した方が、腸の回復が早まる**ことが分かっています。
- 何をあげる?:おかゆ、うどん、パン、じゃがいも、バナナ、野菜スープなど、**消化の良い炭水化物**から始めましょう。脂肪分の多いものや、糖分の多いジュースやお菓子は、下痢を悪化させるので避けてください。
- BRAT食はもう古い?:かつて推奨された「BRAT食(バナナ、リンゴ、お米、トースト)」は、栄養が偏るため、現在では推奨されていません[5]。バランスの取れた、普段通りの食事に早く戻すことが目標です。
ウイルス性?それとも細菌性?見分けるポイントと注意点
ほとんどの胃腸炎はウイルス性ですが、中には抗菌薬による治療が必要な細菌性腸炎もあります。以下のサインが見られた場合は、細菌性の可能性を考える必要があります[6]。
- 血便が出た:目に見える血が混じった便は、細菌性腸炎(O-157、カンピロバクター、サルモネラなど)を強く疑うサインです。
- 40℃を超える高熱が続く
- 激しい腹痛が続く
- 海外渡航歴や、生肉・生卵などを食べたエピソードがある
これらの症状がある場合は、自己判断せず、必ず医療機関を受診し、便の検査などを受けるようにしましょう。
ただの胃腸炎じゃないかも?注意すべき合併症と鑑別疾患
嘔吐や下痢は、胃腸炎以外の病気のサインである可能性もあります。特に、以下の様な症状が見られる場合は、緊急性の高い病気が隠れているかもしれません。
- 激しい腹痛で泣き叫び、少しするとケロッとするのを繰り返す → 腸重積
- 緑色や黄色の液体(胆汁)を吐く → 腸閉塞
- 頭を強く痛がる、意識がおかしい → 髄膜炎
- お腹を押すと強く痛がる(特に右下腹部) → 虫垂炎(盲腸)
これらの症状は、ご家庭での判断が非常に難しい危険なサインです。「いつもと様子が違う」「ただの胃腸炎ではなさそう」と感じたら、お子さまの命を守ることを最優先に、ためらわずに当院のような医療機関、あるいは夜間・休日は救急外来を受診してください。
急性胃腸炎 Q&Aコーナー
A1. 自己判断での下痢止めの使用は、絶対にやめてください。下痢は、体の中のウイルスや毒素を外に出そうとする防御反応です。無理に止めると、かえって回復を遅らせることがあります。整腸剤(プロバイオティクス)については、一部の菌株で下痢の期間を短縮する可能性が示唆されていますが、その効果は限定的です[7]。
A2. 嘔吐が激しくて水分が全く摂れない場合に限り、医師の判断で処方されることがあります。特にオンダンセトロンという薬は、経口補水療法の成功率を高め、点滴の必要性を減らす効果が多くの研究で示されています[8]。 ただしオンダンセトロンは現状日本では保険適応外となっています。
A3. これは非常に重要なご質問です。結論から言うと、**必ずしも下痢が完全に止まるまで休む必要はありません。** なぜなら、胃腸炎の原因となるウイルスは、症状が治まった後も1〜2週間、あるいはそれ以上、便の中に排出され続けることが分かっているからです。完全にウイルスがいなくなるまで待つのは現実的ではありません。
そこで、アメリカ小児科学会(AAP)などが推奨する、より現実的で重要な基準は以下の通りです[9]。
- 嘔吐がなく、食欲が戻り、元気に過ごせている。
- 便がおむつやパンツの中にしっかりと収まっていること。
- トイレトレーニングが済んでいるお子さまの場合、トイレの失敗がないこと。
- 普段の便の回数より、2回以上多くないこと。
つまり、感染対策の観点から最も重要なのは、便が周囲を汚染するリスクがない、ということです。下痢が続いていても、これらの条件を満たしていれば、集団生活への復帰は可能と判断されることが多いです。
長田こどもクリニックの考え方:お子さまの「つらい」に寄り添う医療
お子さまの急性胃腸炎で最も大切なことは、脱水症を防ぎ、体が自然に回復するのをサポートしてあげることです。私たちは、丁寧な診察でお子さまの脱水の程度を正確に評価し、ご家庭での水分補給の具体的な方法や食事の進め方について、一人ひとりの状況に合わせてアドバイスします。
「水分をどのくらいあげればいい?」「この症状で受診すべきか迷う…」そんな時こそ、私たちかかりつけ医を頼ってください。
お子さまの急な体調不良は、時間を選びません。当院は、お仕事などで日中の受診が難しい保護者の皆さまにも安心してご利用いただけるよう、柔軟な診療体制を整えています。
- 平日(月〜金)は、夜20時まで診療
- 土曜日も、13時まで診療
- クリニック前に、無料の専用駐車場を6台完備
杉並区荻窪で、お子さまのつらい症状と、保護者の皆さまの不安に、いつでも寄り添います。
参考文献
- 1)Guarino A, et al. European Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition/European Society for Pediatric Infectious Diseases evidence-based guidelines for the management of acute gastroenteritis in children in Europe: update 2014. J Pediatr Gastroenterol Nutr 2014; 59:132.
- 2)Schreiber DS, et al. The mucosal lesion of the proximal small intestine in acute infectious nonbacterial gastroenteritis. N Engl J Med 1973; 288:1318.
- 3)Hallowell BD, et al. Trends in the Laboratory Detection of Rotavirus Before and After Implementation of Routine Rotavirus Vaccination - United States, 2000-2018. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2019; 68:539.
- 4)Harrison CJ, et al. Multiplex PCR Pathogen Detection in Acute Gastroenteritis Among Hospitalized US Children Compared With Healthy Controls During 2011-2016 in the Post-Rotavirus Vaccine Era. Open Forum Infect Dis 2021; 8:ofab592.
- 5)King CK, et al. Managing acute gastroenteritis among children: oral rehydration, maintenance, and nutritional therapy. MMWR Recomm Rep 2003; 52:1.
- 6)Shane AL, Mody RK, Crump JA, et al. 2017 Infectious Diseases Society of America Clinical Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Infectious Diarrhea. Clin Infect Dis 2017; 65:e45.
- 7)Collinson S, et al. Probiotics for treating acute infectious diarrhoea. Cochrane Database Syst Rev 2020; 12:CD003048.
- 8)Fugetto F, et al. Single-dose of ondansetron for vomiting in children and adolescents with acute gastroenteritis-an updated systematic review and meta-analysis. Eur J Pediatr 2020; 179:1007.
- 9)American Academy of Pediatrics. Norovirus and Sapovirus Infections. In: Red Book: 2024-2027 Report of the Committee on Infectious Diseases.
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杉並区荻窪の小児科・アレルギー科