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【専門医が解説】新生児の体重増加不良と哺乳量測定。完母への焦りから解放されるための正しい知識とエビデンス。

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【小児科専門医が解説】新生児の体重増加不良と哺乳量測定。完母への焦りから解放されるための正しい知識とエビデンス

退院してご自宅での生活が始まると、「おっぱいは足りているかな?」「体重がしっかり増えているか不安…」と悩むお母様は非常に多くいらっしゃいます。
特に「絶対に完母(完全母乳)で育てたい!」と頑張りすぎるあまり、ベビースケール(体重計)の数十グラムの増減に一喜一憂し、心身ともに疲れ切ってしまうケースを診察室でたびたび目にします。

私はこれまでNICU(新生児集中治療室)で4年間、数多くの重症な未熟児や病気の赤ちゃんの全身管理に携わってまいりました。この集中治療の現場で培った経験を、地域の赤ちゃんとご家族に少しでも還元できればと願っております。
新生児特有のわずかなサインを見逃さず、同時に「ここは心配しなくて大丈夫ですよ」とお伝えすることで、お母様の不安を少しでも和らげるお手伝いができれば幸いです。

今回は、長田こどもクリニック副院長(小児科専門医)の長田洋資としての知見と、最新の医学的エビデンスに基づき、新生児の正しい体重増加の目安、お母さんが疲弊しない哺乳量の測り方、そして「人工乳(ミルク)」の本当の価値について詳しく解説します。

当院のブログが目指すこと:エビデンスに基づく情報発信

私たち杉並区荻窪の長田こどもクリニックは、小児科診療において、一個人の意見ではなく、常に科学的根拠(エビデンス)に基づいた診断と治療を最優先にしています。
インターネットで医療情報を検索する中で、多くの情報が個人の経験談であったり、根拠の不確かな情報も少なくありません。「新生児の哺乳量と体重増加不良」に関するこの記事も、世界中の医師が信頼を寄せる最新の医学論文レビューや国内外の診療ガイドラインを基に、他の医療者から見ても妥当だと思っていただけるレベルで、日本一詳しく、そして正確に解説することを目指します。

1. 新生児の正しい「体重増加」の目安とは?

まず大前提として、生まれた直後の赤ちゃんは、飲んでいる量にかかわらず一時的に体重が減ります。これを「生理的体重減少」と呼び、生後数日間にわたって出生体重の5〜10%程度減少するのはごく自然なことです。
その後、生後1週間〜10日程度で出生時の体重に戻り、そこから本格的な体重増加が始まります。

1日あたりの体重増加の目安

一般的に、生後0ヶ月〜3ヶ月頃までの1日あたりの体重増加量は「15g〜30g程度」が目安とされています(※WHOや厚生労働省の成長曲線に基づく)。

注意点:短期間の数値にとらわれないで

赤ちゃんの体重増加は一定ではなく、階段状に増えることもあります。1日単位ではなく、1週間〜2週間のトータルで見て、1日平均が15g以上増えていれば、まずは順調と考えてよいでしょう。

2. 体重測定は「週2回」で十分!毎日の測定が疲労を生む理由

母乳がどれくらい出ているかを確認するために、授乳の前後や毎日同じ時間に体重を測るお母様がいらっしゃいますが、実はこれには大きな落とし穴があります。

毎日の体重増減に一喜一憂するのは非常に疲れます

母乳の分泌量や赤ちゃんの飲む量は、お母さんの疲労度や時間帯(朝は出やすく夕方は出にくい等)、その日の赤ちゃんの機嫌によって大きく変動します。
そのため、「昨日は30g増えたのに、今日は10gしか増えていない」「さっきは40ml飲んだのに、今回は20mlだった」と、毎日の細かな数値のブレに一喜一憂することは、お母さんの多大な精神的ストレス(測定ノイローゼ)に直結します。

  • 測定は「週2回程度」で十分です: 毎日、ましてや毎回の授乳で測る必要はありません。数日おきに測り、おおらかな視点でトレンド(推移)を見ることが大切です。
    正直なところ、ご自宅にベビースケールがあると、ついつい気になって頻繁に測定してしまい、結果的に「測定ノイローゼ」になってしまうお母様も少なくありません。そのため、無理にご自宅で購入やレンタルはせず、当院などを受診された際に計測するくらいが、精神的にもちょうどいいと私は思っています。
  • 赤ちゃんの様子をよく観察する: 体重計の数値以上に、「おしっこが1日6回以上しっかり出ているか」「授乳後に満足そうに寝ているか」「肌にハリがあるか」という全身のサインが、成長を測る一番のバロメーターです。

3. 母乳と人工乳(ミルク)のエビデンス:人工乳は決して「負け」ではありません

「母乳育児が一番良い」「ミルクを足すと免疫力が落ちるのでは?」といった周囲からの声やネットの情報によって、「完母」に強くこだわるあまり、お母さんが追い詰められてしまうケースが後を絶ちません。

確かに母乳には免疫物質(IgAなど)が含まれており、素晴らしい栄養源です。しかし、現代の人工乳(粉ミルク・液体ミルク)は極めて優秀であり、小児科専門医の視点から見ても、人工乳を活用することは全く悪いことではありません。

エビデンスで見る:母乳と人工乳の「長期的」な違い

世界的な医学研究(PROBIT試験など)や多くの追跡調査において、先進国のように清潔な水と衛生環境が整っている状況下では、母乳育児と人工乳育児とで、将来の赤ちゃんの健康や知能(IQ)、アレルギーの発症率に決定的な差はないことが示されています。

項目 母乳のエビデンス 人工乳(ミルク)のエビデンス
栄養素・発育 赤ちゃんの消化に優れ、時期に合わせて成分が変化する。 母乳を徹底的に研究して作られており、成長に必要な栄養素は完全に網羅されている。発育上の不利はない。
免疫・感染症 初乳などに免疫抗体が含まれ、生後数ヶ月の感染症リスクをやや下げる。 先進国(日本など)においては、人工乳だからといって重篤な感染症リスクが跳ね上がるわけではない。
母親のメンタル 授乳によるオキシトシン分泌で愛着が形成されやすい一方、頻回授乳による睡眠不足・疲労の原因にもなる。 家族(父親など)と授乳を分担できるため、母親の睡眠確保と産後うつの予防に絶大な効果がある。
小児科医からのメッセージ

赤ちゃんにとって最も大切なのは「お母さんが心身ともに健康で、笑顔で向き合ってくれること」です。母乳が足りずに赤ちゃんの体重が増えない(脱水や低血糖のリスク)ことの方が、よほど危険です。「ミルクを足す=母乳育児の失敗」では決してありません。お母さんがしっかり休むための手段として、積極的にミルクを頼ってください。

4. こんな時は迷わず受診を!NICUの経験を活かして診察します

体重増加が緩やかでも機嫌が良ければ様子を見られることが多いですが、以下のサインがある場合は、単なる哺乳不足だけでなく、脱水や他の疾患が隠れている可能性があります。NICUで培った経験を活かしてしっかりと診察いたしますので、ためらわずに当院をご受診ください。

  • おしっ子の回数が極端に少ない(1日6回未満、または色が濃いレンガ色)
  • 泣き声が弱々しく、常にぐったりして眠り続けている
  • 皮膚や唇がカサカサに乾燥している
  • 生後2週間を過ぎても出生体重に戻らない
  • 白目や皮膚の「黄色み(黄疸)」が強くなってきた

5. 【助産師外来】毎週水曜午前は、母乳や乳腺炎のお悩みもサポート

「ミルクの適切な足し方がわからない」「おっぱいが張って痛い、赤くなっている(乳腺炎かもしれない)」といった、お母様ご自身の体のトラブルや授乳の悩みも、決して一人で抱え込まないでください。

毎週水曜午前の「助産師外来」でお待ちしております

長田こどもクリニックでは、毎週水曜日の午前外来に経験豊富な助産師が在籍しております。

わざわざ別の母乳外来や産婦人科を予約して足を運ぶ必要はありません。お子様と一緒に当院へご来院いただければ、小児科医がお子様の体重増加や健康状態を医学的に診察すると同時に、助産師がお母様の乳房ケアや授乳のアドバイスをワンストップで行うことが可能です。
乳腺炎の辛い痛みや、卒乳・断乳のご相談など、どんなことでもお気軽に助産師へご相談ください。

6. 保護者の方からよくある質問(Q&A)

ミルクを足すと、おっぱいを吸わなくなって完母に戻れなくなりますか?
哺乳瓶は母乳よりも簡単に飲めるため、「乳頭混乱」を起こす赤ちゃんも一部にいます。しかし、赤ちゃんの体重増加と健康が最優先です。まずは十分な栄養(ミルク)を与えて体力をつけさせた上で、お母さんの疲労が回復してから母乳の回数を増やしていく「混合栄養」のコントロールを一緒に考えていきましょう。
ベビースケール(体重計)は家庭用にレンタルした方が良いでしょうか?
本文でもお伝えした通り、毎日数字に縛られてストレスになるお母様が圧倒的に多いです。ご自宅にない場合は、当院へご来院いただいた際にしっかりと計測・評価しますので、無理にご用意いただく必要はありません。
母乳の質が悪いから体重が増えないのでしょうか?食事を改善すべきですか?
「お母さんの食べたものが直接母乳の質を悪くする」という明確な科学的根拠はありません。極端な食事制限(油物を避ける等)は、お母さんの産後の回復を遅らせ、ストレスを増長させます。バランスの良い食事をとり、まずは水分と睡眠をしっかりとることを優先してください。

7. まとめ:赤ちゃんの成長をご家族と一緒に見守ります

新生児期の体重増加不良や哺乳量の悩みは、真面目で赤ちゃん想いのお母さんほど深く抱え込みやすい問題です。毎日の体重測定で一喜一憂するのをやめ、「完母で育てなければ」というプレッシャーを手放し、ミルクという科学の恩恵を頼ることは、決して悪いことではありません。

杉並区南荻窪の長田こどもクリニックでは、ガイドラインや医学的エビデンスを大切にしながら、NICUでの経験を地域の皆様に少しでも還元し、赤ちゃんの健やかな成長をサポートしていきたいと考えております。さらに水曜午前には助産師外来も設けており、母子同時のケアが可能です。「体重が増えているか心配」「乳腺炎かもしれない」など、少しでも不安なことがあれば、一人で悩まずに当院へご相談ください。ご家族と一緒に、赤ちゃんの成長を温かく見守ってまいります。

【引用文献・エビデンス集】
  1. 母乳育児介入試験(PROBIT試験)に関する国際的な論文
    Kramer MS, et al. "Promotion of Breastfeeding Intervention Trial (PROBIT): A randomized trial in the Republic of Belarus." JAMA. 2001 Jan 24-31;285(4):413-20.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11242425/ (PubMed・英語)
  2. 日本の授乳・離乳に関する公式ガイドライン
    厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」
    ※赤ちゃんの適切な体重増加の目安や、母乳・人工乳の活用についてのエビデンスがまとめられています。
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000045510.html (厚生労働省 公式サイト)
  3. 乳幼児の標準的な身体発育・体重増加に関する基準
    厚生労働省「乳幼児身体発育調査(平成22年)」
    ※母子健康手帳にも採用されている、日本の子どもの標準的な成長曲線の基礎データです。
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/73-22.html (厚生労働省 公式サイト)
杉並区南荻窪の小児科・アレルギー科
長田こどもクリニック 副院長 長田洋資(小児科専門医)
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